×

社説・コラム

『潮流』 「復興」の旗の下に

■文化部長 山中和久

 広島市文化財団などが公募した「第31回市民文芸」でエッセー・ノンフィクション部門の審査員を務めさせてもらった。入賞作はどれも、その人しか書けない、そして今だから書けたドラマだったように思う。

 中でも、原爆資料館に展示されている「復興」の旗にまつわる物語が心に残った。旗を作ったのは今の中区榎町で製菓業を営んでいた小原友次郎さん。孫の宮川薫さん(61)の作品で、同部門の2席に選ばれた。

 旗は米国に原爆を落とされた翌日、友次郎さんが自宅兼工場の焼け跡に立てたとされる。末っ子の六男の命を奪われ、自身も倒壊した自宅の下敷きに。額に傷を負いながら、自宅の燃えた炭で焦げた布地に力強く大書きした。

 さらに宮川さんの父である三男芳郎さんに告げる。「見とけよ。ここにもう一回、みんなで力を合わせて工場を造り直すんじゃ」と。だが友次郎さんは次第に寝込むようになり、9月1日に61歳で亡くなる。願いを継いだ5人の息子は力を合わせ工場を再建した。

 友次郎さんの亡くなった年齢になったことが宮川さんを執筆に向かわせた。戦争の時代を生きた家族の歴史、父と出会う前の母の8月6日、祖父が作っていた「銀世界」という菓子…。「このままでは消えてしまう。書き残すことは今の私にしかできない」

 アニメ映画「この世界の片隅に」の終盤、廃虚となった広島の街に「復興」の旗が描かれたことも後押しした。資料館の収蔵資料の中に友次郎さんの旗を見つけた片渕須直監督が取り入れたシーン。6日に監督と対面した宮川さんは「映画の中で祖父が生き続けている気がした」と話した。

 同作を含む入賞作を掲載した「文芸ひろしま」は12月に発行される。読んだ人、資料館を見学した人、映画を見た人の思いが旗の下に重なっていくといい。

(2019年8月15日朝刊掲載)

年別アーカイブ