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「揺らぐ核軍縮」 緊急声明 INF条約失効に危機感 ひろしまラウンドテーブル採択

 東アジアの核軍縮の道筋を探る会議「ひろしまラウンドテーブル」は22日、今月2日の中距離核戦力(INF)廃棄条約の失効を受けて全ての国に軍備競争の抑制を求めるなど、4項目の緊急アピールを採択した。核兵器廃絶に向けた国際的な枠組みや制度が崩壊の危機にあるという意識を、核兵器保有国を含む9カ国からの参加者全員が共有した結果としている。(久保友美恵)

 広島県が2013年から毎年開く会議で、緊急アピールの採択は初めて。文案は、広島市中区のホテルで2日間開いた討議で仕上げた。前文では「核兵器使用のリスクの高まりや核不拡散体制の信頼性と有効性が損なわれる危機を深く憂慮している」と強調。平和と安定を維持するためとして、4項目を掲げた。

 このうちINF廃棄条約の失効については「遺憾」と強調。中距離ミサイルの軍備競争は不安定化を招くとして、「最大限の抑制」と「相互抑制の全ての可能性の検討」をするよう、全ての国に強く求めた。

 ほかの3項目は、21年2月に期限切れを迎える新戦略兵器削減条約(新START)の5年間の延長▽包括的核実験禁止条約(CTBT)の一刻も早い発効に向けた関係国の署名・批准▽イラン核合意の堅持。CTBTでは、全ての国が発効までの間、条約の目標と目的を損なう活動をしないよう注文した。

 緊急アピールは日本、米国、中国、スウェーデンなど9カ国の軍縮や外交の専門家たち24人のうち、日本のメンバーが準備を進めてきたという。「核抑止への依存を低減し、核軍縮を前進させるための具体的な措置を議論し、提案した」とする議長声明もまとめた。

 県は今後、外務省や各国政府に理解と協力を求めるほか、来年春の核拡散防止条約(NPT)再検討会議に提出する。参加者にもそれぞれの立場で発信してもらう。終了後に記者会見した湯崎英彦知事は「核軍縮を巡る状況は非常に厳しいが、世界の知恵を集めて乗り越えていかなければならない」と語った。

<ひろしまラウンドテーブルの緊急アピールの骨子>

○核兵器使用のリスクの高まり、核軍備管理・軍縮を取り巻く状況の継続的な悪化、核不拡散体制の信頼性と有効性が損なわれる危機を深く憂慮している
○遺憾なことに、中距離核戦力(INF)廃棄条約は破棄された。中距離ミサイルのいかなる軍備競争も不安定化を招く
○新戦略兵器削減条約(新START)の期限をさらに5年間延長する選択肢の行使は極めて重要だ
○包括的核実験禁止条約(CTBT)の一刻も早い発効のため、関係国に条約の署名・批准を求める
○イラン核合意で、ある参加国の一方的な離脱決定を強く遺憾に思い、全ての参加国に引き続き堅持するよう求める

中距離核戦力(INF)廃棄条約の失効
 冷戦後に特定分野の核戦力の全廃を初めて掲げ、核軍縮の支柱となった米ロの「中距離核戦力(INF)廃棄条約」が今月2日に失効した。条約は1987年に当時のゴルバチョフ・ソ連共産党書記長とレーガン米大統領が調印して以来、核大国同士が30年以上維持してきた。だが米国がことし2月、ロシアの違反を理由に破棄を通告。違反を否定するロシアとの対立が解けないまま、条約が定めた失効日を迎えた。

(2019年8月23日朝刊掲載)

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