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社説・コラム

社説 増額続く防衛費 歯止め論議 欠かせない

 政府は財政支出の拡大に歯止めをかける気があるのだろうか。2020年度予算編成に向けた各省庁の一般会計の概算要求は総額105兆円規模と、2年連続で過去最大を更新した。

 高齢化の進展で社会保障費の増加は避けられない。一方で国の借金は増え続けており、あらゆる政策の見直しが欠かせないはずだ。しかし財政規律は緩んだままと言わざるを得ない。

 社会保障費とともに目立つのは防衛費だ。第2次安倍政権になって以降、増額が続く。安全保障を巡る環境が厳しさを増しているとはいえ、歯止めの論議を欠いたまま「聖域」扱いしてはならない。

 防衛省は過去最大となる総額5兆3千億円を要求した。年末の予算編成で金額が定まる米軍再編関係経費などを含めると、最終的には安倍政権下でも異例の高い伸びになるとみられる。

 昨年末に閣議決定した中期防衛力整備計画に沿い、金額も、対象分野も拡大路線がよりはっきりしたと言えよう。

 宇宙やサイバーなどの分野を「新たな戦場」と位置付ける米国政府への追随が際立つように映る。米軍は先日、新たに「宇宙軍」を発足させた。日本政府は呼び方こそ異なるものの「新たな領域」への対応として、航空自衛隊に「宇宙作戦隊」を創設。陸上自衛隊に電磁波で敵を妨害する「電子戦部隊」設置費も今回計上した。サイバー分野も強化するという。

 米国の思うがまま、なし崩し的に軍事的な連携を深めようとするのであれば、許されない。

 高額な装備の購入でも米国の言いなりではないか。分割払いで支払う「歳出化経費」は2兆2千億円近くに上った。概算要求額の4割を占め、防衛費を圧迫している。前年度当初予算比で1割増え、「ローン」が重荷となりつつある。

 20年度予算では、海上自衛隊の護衛艦「いずも」を事実上空母化する改修費に加え、そこで運用する米国製戦闘機F35B、6機の取得費約850億円も計上した。空母は「攻撃型」になることも可能で、専守防衛を逸脱する恐れもある。

 また、地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」は2基で総額約2500億円に上る。配備を予定する山口、秋田両県の理解が得られないため、今回は垂直発射装置など約120億円の予算計上にとどめたという。北朝鮮の核開発を巡る緊張感も一時に比べ緩和している。本当に必要かどうか、改めて論議を尽くす必要がある。

 10年先を見通すはずの防衛力整備の指針「防衛計画の大綱」を昨年、制定からわずか5年で見直した。中国などの軍事力拡大などの変化はあろう。しかし装備の購入が、それまでの大綱の枠をはみ出し、修正を迫られたとの見方もある。

 米国との貿易摩擦などを避けるために、トランプ大統領が求める「応分の負担」に応え、装備が過剰になっているとみられても仕方あるまい。

 防衛費は歴代政権が国内総生産(GDP)の1%以内の水準を保ってきた。今後の経済成長や予算編成によっては、20年度予算で突破する恐れがある。専守防衛との整合性はもちろん、厳しい財政事情を踏まえ、どこまでなら許されるか、立ち止まって考えるべきではないか。

(2019年9月2日朝刊掲載)

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