×

ニュース

被爆体験継承 立場超え追求 中国人の楊さん 博士論文 広島大大学院

 広島大大学院国際協力研究科の楊小平さん(31)=東広島市西条町=が、被爆体験の継承をテーマに博士論文をまとめた。旧日本軍に侵略された中国からの留学生。原爆資料館(広島市中区)の案内をするヒロシマピースボランティアとして被爆地広島で活動する中で気付いた点を踏まえ、平和への思いを込めている。(新谷枝里子)

 論文はA4判、146ページで、タイトルは「広島平和記念資料館における原爆体験の継承の在り方とその変容」。広島市の公文書や原爆資料館の展示などを考察した。ピースボランティアの仲間や来館者への聞き取り調査を加えて構成。被爆体験の有無や年齢、国籍など異なるバックグラウンドを持つ人々の受け止め方を分析した。

 例えば、「南京陥落を祝賀する提灯(ちょうちん)行列」(1937年)の写真。日本の戦争責任を示していると捉える人がいる一方で、海外からの来館者の中には「日本が加害者として南京で何をしたのか示されていない」と不満を口にする人もいた。

 また、中国人の楊さんがピースボランティアとして原爆被害を伝えている様子は、多くのメディアに取り上げられた。「国籍にかかわらず、ヒロシマの事実を伝えている私を見て、平和への希望を持つ人がいる」と指摘。自身が初めてピースボランティアに案内された際もその熱意に驚き、共感したという。

 楊さんは四川省の出身。地元の外国語大学で日本語を勉強した後に来日し、2006年に広島大大学院に入学した。「原爆は戦争を終わらせた」程度の理解だったというが、資料館の見学で原爆投下後の惨状や日本人の歴史の受け止め方への関心が高まり、ボランティアに登録した。

 11年にはボランティア仲間を連れ、中国・重慶市や南京市を訪問。南京大虐殺の記念館などを巡り、日中友好を実現するために四川大の学生とも戦争について話し合った。

 「被爆者ではない人や私のような外国人など多様な立場の人が、それぞれの思いを持って原爆の体験を継承していくことが、平和への道筋になる」

 専門は文化人類学の博物展示。メッセージを効果的に伝える方法などを研究している。「原爆資料館の展示やピースボランティアの説明の仕方など具体的な改善策を提示することを次のステップに、中日の友好の懸け橋になりたい」。被爆体験の継承を、被害、加害を乗り越えた平和を紡ぐきっかけにするつもりだ。

(2013年4月8日朝刊掲載)

年別アーカイブ