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社説・コラム

『記者縦横』 旧満州入植 記憶つないで

■府中支局 野平慧一

 25年ほど前にテレビで見て衝撃を受けた。長野県から旧満州(中国東北部)に入植した開拓団の少年が、敗戦時の混乱の中、残留孤児となり波乱の人生を送る―。山崎豊子さんの小説「大地の子」を原作としたドラマだ。

 府中市に接する福山市新市町からの開拓団も悲劇に遭ったことを知らない人も多いだろう。旧芦品郡常金丸村(新市町常、金丸)の開拓団78世帯211人は敗戦後の帰途、ほぼ半数が命を落としたとされる。

 「満州へ望んで行ったわけではない」。元団員の土居進さん(88)と海原明さん(83)がこのほど、地元の公民館で証言した。応募者が足りず地区ごとの責任割り当てで入植が決まった経緯などを語った。雨空の下、会場に入りきらず屋外で証言資料を読み込む人や、遺影を見つめてしきりに記憶を呼び戻そうとする人の姿もあった。

 企画した地元の郷土研究会の石口寛治代表(88)は、旧常金丸国民学校(常金丸小)で土居さんの級友だった。「生の証言が聞けるのもあとわずかじゃから」。当初そう説明していたが後日、胸にとどめた思いを明かしてくれた。「元団員は命懸けで村へ戻ってからも苦しい生活が続いた。私は行かんかったから負い目を感じとったんよ」

 分村という形で戦争に組み込まれた常金丸村。記憶の風化が進む中、目を背けたくなる過去を「知られざる悲劇」にしてはいけない。会場に集まった人たちの思いが、胸に重く響いた。

(2019年9月6日朝刊掲載)

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