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社説・コラム

立憲主義と9条堅持を 日本遺族会名誉顧問 古賀誠氏に聞く

岸田氏の平和発信 期待

 戦後74年。広島、長崎の被爆者と同じく、戦争で命を落とした軍人や軍属たちの家族も高齢化が進む。悲しみや記憶を後世にどう伝え、平和を願う気持ちをいかに引き継ぐか。日本遺族会の名誉顧問を務める古賀誠・元自民党幹事長(79)に聞いた。(下久保聖司)

  ―昭和から平成、そして令和の時代を迎えました。
 私たち戦没者遺族にとり戦後74年は長くて短い、短くて長いというのが実感です。ただ、日本遺族会の会員数は10年前より30万減の57万世帯。戦没者の妻から子、孫やひ孫へと、担い手を育てねばなりません。

  ―自身の境遇を改めて聞かせてください。
 乾物商だった父は赤紙召集され、昭和19(1944)年、フィリピンのレイテ島で戦死しました。最期は無念を通り越して「なぜだ」と不思議だったのではないか。戦後、行商で私を育ててくれた母はどんな思いだったでしょう。

  ―大きな苦しみや悲しみは被爆地にもありました。
 最もあってはならない出来事の縮図です。戦没者、遺族も広島、長崎の被爆者や家族も同じ犠牲者。私なりに思いを寄せてきました。

  ―政界引退から7年。古巣の自民党は改憲論議を進める方針です。
 いろんな社会変化が起きており、今のままの憲法でいいとは思いません。ただ改憲は国民がわだかまりを持たず、野党にも賛同してもらえる内容であらねば。立憲主義と9条がうたう平和主義は堅持すべきです。総理(安倍晋三首相)は憲法9条に自衛隊を明記したい考えのようですが、私はその必要はないと考えます。

  ―なぜですか。
 自衛隊の災害派遣や国際ルールにのっとった平和活動に国民は感謝と尊敬の念を向けています。総理は自衛隊違憲論者を封じたいのでしょう。でも、明文化によって、9条の理念が脅かされるのではないかという国民の不安や心配が大きくなるのではないか。

  ―政界引退後も党の派閥、宏池会(岸田派)の名誉会長をされています。宏池会は「ハト派」で知られ、現会長の岸田文雄政調会長(広島1区)は次の首相候補の一人ですね。
 岸田さんには平和をもっと語ってほしい。被爆地広島の選出なのだから誰も文句は言わない。戦没者遺児の私も平和については周りに口を挟ませなかった。岸田さんは宏池会のエース。将来の総理候補だが、「ポスト安倍」にはこだわらないほうがいい。平和が脅かされる政治はやらないというのが、今の彼が下すべき決断でしょう。

こが・まこと
 福岡県瀬高町(現みやま市)生まれ。日本大卒。参院議員秘書を経て80年衆院選旧福岡3区で初当選し、連続10期。96~97年運輸相、00~01年自民党幹事長。02~12年日本遺族会会長、06~12年に自民党の派閥、宏池会の会長を務めた。

日本遺族会
 太平洋戦争で亡くなった軍人・軍属の妻や遺児たちでつくる全国組織。1947年に日本遺族厚生連盟として創設され、戦没者の顕彰や遺族の処遇改善、福祉増進に取り組む。現在の会員数は57万世帯。

(2019年9月7日朝刊掲載)

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