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社説・コラム

社説 北方領土交渉 解決の道筋 一体どこへ

 安倍晋三首相はロシア極東ウラジオストクで、プーチン大統領と会談した。北方領土問題を含む平和条約交渉を巡っては「未来志向で作業を進める」方針を確認するだけにとどまり、具体的な進展はなかった。

 交渉は進むどころか、むしろ後退しているのではないか。日ロ間に横たわる根本的な難題が浮き彫りになるばかりだ。平和条約の前提となる北方領土の主権を巡る歴史認識の隔たりは埋めることができず、安全保障の問題も越えがたい障壁である。

 具体的な展望があるようには見えない。政府は交渉の行き詰まりを率直に認め、仕切り直すべきではないか。交渉をいったん総括し、国民への説明責任を果たすべきだ。

 昨年11月のシンガポールでの会談で、両首脳は1956年の日ソ共同宣言を基礎に交渉を加速させることで一致した。宣言では、平和条約締結後に歯舞群島と色丹島を日本に引き渡すことを明記している。

 首相は認めていないが、国後、択捉を加えた4島返還から2島先行返還へ転換したとみられている。日本からしてみれば大幅な譲歩である。なんとか交渉の膠着(こうちゃく)状態を打開し、早期に交渉を進展させたい思惑があったのだろうが、見通しが甘かったようだ。

 ロシアの姿勢はかたくなだ。第2次大戦の結果、北方四島が合法的にロシア領になったとの原則論を繰り返す。四島をロシア領と認めない限り交渉はできないとし、「北方領土」という表現も受け入れていない。

 譲歩したとはいえ、「北方領土は固有の領土」との主権に関する基本認識は譲れない。ロシアの主張を受け入れることなどできない。

 さらにプーチン氏は最近、日本の安全保障の生命線とも言える日米同盟を問題視する発言を繰り返している。日本が導入を決めた地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」もロシアへの脅威だと批判している。

 ロシアは、北方四島をオホーツク海防衛線の一部と位置づけ、ミサイル配備など軍備の増強を続けているのが現状だ。「新冷戦」とも言われる米ロの軍拡競争は、今後さらに激化する懸念が強い。北方領土はその最前線にある。交渉をさらに難しくさせるのは間違いない。

 今回の首脳会談の直前にも、プーチン氏は北方領土の色丹島に建設した水産加工場の稼働式典に、テレビ中継の映像で参加した。領土問題に対する強気の姿勢とともに、自力による北方四島の開発を誇示したかったのだろう。

 首相はプーチン氏との個人的な信頼関係の構築が領土問題の解決への早道として、今回を含めて27回も会談を重ねてきた。その結果が今回の仕打ちである。プーチン氏にもともと領土交渉を進める意思があったのかどうかも疑わざるを得ない。

 首相が領土問題の解決への環境整備と位置づける共同経済活動では、観光ツアーなどの試行事業を10月に実施することで合意した。だが、ロシアは「国内法で行う」姿勢を崩していない。具体的な実行は見通せないのが実情だ。

 このまま交渉を重ねても、解決への道筋が開けてくるとは思えない。日本は、対ロ交渉の戦略と戦術を練り直すときだ。

(2019年9月7日朝刊掲載)

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