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社説・コラム

一人一人の「生」 後世に 戦争体験継承 博物館の役割は 「9・11記念」副館長に聞く

若者への語り方 考えたい

 戦争の犠牲者を悼み、事実を後世に伝えるにはどうすればいいのか。広島市で5日にあった戦争博物館の専門家たちによる国際シンポジウムでは、被爆地広島と各国の博物館が抱える共通の課題が浮き彫りになった。シンポに参加し、2001年の米中枢同時テロを扱う「9・11記念博物館」のクリフォード・チャニン副館長に博物館の役割などを聞いた。(明知隼二)

  ―9・11記念博物館をなぜ建てたのですか。
 博物館には、犠牲者の追悼と、事件を歴史的な文脈の中で語り伝える二つの役割がある。遺品を手放し、公のものにしたくない遺族もいるが、スタッフは何年もかけて遺族と信頼関係を築き、寄贈を受ける。50年後も語ることができるよう、遺族の「忘れないで」との願いを受け止め続けなくてはならない。

 跡地に設けた人工池の欄干には犠牲者一人一人の名を刻んだ。「死者の多さ」ではなく、固有の「生」を伝えている。毎朝、誕生日を迎える犠牲者の名に白いバラの切り花を挿す。来館者にとって、犠牲者が確かに生きていたと感じるきっかけになる。

 博物館が建つ前、現場はフェンスで囲まれた大きな穴があるだけだったが、何千人もが連日取り囲んだ。歴史的な出来事の現場にはそうした力がある。

  ―犠牲者の追悼を強調することには、ナショナリズムや反イスラム主義と結びつく危険も感じます。
 同時テロに至る経緯説明では、首謀したアルカイダの誕生やテロの実行者たちの動機を説明した。同時に、一般的なイスラム教徒とは関係がないことも明示した。同時テロの犠牲者は90カ国以上にわたり、米国だけの出来事ではないとも伝えている。

  ―原爆資料館本館は、ことし4月に展示を新しくしました。どう見ましたか。
 原爆が人間に何をもたらしたか。感覚的につかむという意味で力強い展示だ。混雑ぶりも重要だ。来館者が、年代も文化も異なる人たちと「ヒロシマを記憶する」という目的を共有していると感じることは、体験の大切な一部だからだ。

  ―直接的に経験していない世代が増えていきます。
 小中高校生や家族連れ向けなど、年代別の教育プログラムや教材を充実させてきた。毎年9月11日、インターネットで世界の教室と博物館のスタッフをつなぎ、質問に答えている。

 事件から18年。高校生以下は当時を知らない。広島はより長い時間がたつが、課題は共有している。過去の出来事がなぜ今も重要なのか。若い世代に伝わる語り方を共に見いだしていきたい。

米中枢同時テロと記念博物館
 2001年9月11日、米国の経済や政治の中枢の重要な建物を狙った大規模テロ。旅客機4機が乗っ取られ、うち2機がニューヨークの世界貿易センタービル(WTC)2棟に突っ込み、ビルが崩壊するなどした。日本人24人を含む約3千人が死亡した。WTC跡地には11年9月、追悼の人工池を中心とする記念広場がオープン。ブルームバーグ元ニューヨーク市長がトップを務める非営利団体が14年5月、9・11記念博物館を開館し、6万点以上の遺品や資料を収蔵。事件当日の様子などを解説する「歴史展示」と、犠牲者を紹介する「記憶展示」で構成する。これまでに約1600万人が訪れた。

(2019年9月10日朝刊掲載9

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