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広島の戦後 ミステリーで 長崎尚志さんが長編

 小説家長崎尚志さんが「風はずっと吹いている」(写真・小学館)を刊行した。漫画原作者としても知られる著者が原爆をテーマに手掛けた異色の長編ミステリーだ。

 現代の広島郊外の山中で、白骨遺体と、頭蓋骨一つが見つかる。やがて遺体の身元は、頭蓋骨を持って日本に来た米国人女性と分かる。頭蓋骨は、女性の父親が原爆投下後の広島で、少年たちから購入したものだった。

 警察の捜査の過程で、原爆孤児たちのグループが浮かび上がる。女性の来日目的、原爆投下直前に起きたある事件の真相、原爆孤児たちの苦難と悲しみ…。現代と過去を行き来しながら次第に明らかになる真実が、罪とは何かを問い掛ける。長崎さんは「読者の判断に任せるが、戦争は結局後悔しかないと言いたい」と作品に込めた思いを語る。

 小学1年から4年まで広島で暮らし、現在、東京と広島に仕事場がある長崎さん。子どもの頃、平和教育を受け、被爆者から話も聞いた。しかし、原爆については「ちゃんと勉強せず、やり残した宿題みたいなイメージがあった。あらゆる体験記を読み込んだ」。

 被爆していない自分が、原爆を大衆小説で描いていいのかずいぶん悩んだという。しかし、「いつか体験した人がいなくなった時、誰も語らなくていいのか」と思うようになった。

 物語に実在のモデルはいない。本の帯や表紙からは原爆が題材とは分からない。「あまりにも原爆について知ろうとしない人が多い。いろんな人に手に取ってもらい、考えるきっかけになれば」

 1944円。(増田咲子)

(2019年9月18日朝刊掲載)

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