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[週末リポート 原未緒] イージス知ってたら来ず 阿武町 揺れる移住者

「自然が魅力」 定住施策に打撃

 地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」を萩市の陸上自衛隊むつみ演習場へ配備する計画を巡り、隣の阿武町の移住者たちから「求めていた場所ではなくなる」との不安が広がっている。移住施策を進める花田憲彦町長は「町の存亡に関わる」と危機感をあらわにする。花田町長が計画反対を表明してから20日で1年。揺れる移住者たちを訪ねた。

 演習場北約2キロの同町福田下。2010年に移住してきた飲食店経営の飯田広さん(63)は「軍事施設ができると知ってたら来なかった」とつぶやく。

 神奈川県出身の飯田さんは競輪選手を01年に引退後、農業ができる土地を求め長野県や鹿児島県の奄美大島に移住。「より住みやすい所を」と探す中、偶然立ち寄った阿武町の農地付きの民家が気に入り移住を決めた。ほぼ手作業でリフォームし野菜を作りながらカフェを営む。

転入超過の実績

 演習場に地上イージス計画が浮上したのは妻の成美さんが病気で亡くなった直後の17年秋ごろ。町を出るべきか悩みながら反対活動を続けてきた。飯田さんは「妻が生きていたら何と言ったか。目の前に軍事施設が建つのに傍観者ではいられない」と力を込める。

 山口市出身で1月に赴任した地域おこし協力隊員の石川翔子さん(34)は「海と山の幸が豊かな町で人が集える飲食店を開きたかった。地上イージスができたら子育て世代や若者が出て行くんじゃないか。見通しが立たない」と悩む。子育て世代の移住者からも「自然が豊かで安心して子育てできる環境を求めて来たのに」「警備対象の軍事施設が地域にあること自体が怖い」などの声が挙がる。

 町は自然豊かな魅力を生かし独自のUIターン奨励金や移住の際の就職、住まい探しのサポート窓口など定住策に注力してきた。15年には転入者が転出者を上回る「転入超過」の割合が全国で17番目の高さとなった。調査した「持続可能な地域社会総合研究所」(益田市)の藤山浩所長(59)は「海もあり山もある借り物ではない自然が移住者には魅力なのでは」とみる。

 それだけに花田町長は「農業も水産業も移住者が支えている。彼らがいなくなれば成り立たない」との懸念を募らせる。5月に面会した防衛副大臣にもあらためて計画の撤回を強く要求。「交付金の見返りなんて要らない」と言い切る。

「国は理解せず」

 国はまちづくりの影響への対策としてインターネットでの安全性の広報や自衛隊員の地域清掃、祭りへの協力などを示す。これに対し花田町長は「国はまちづくりの真の意味を分かっていない。転勤族の自衛隊員が催しのお手伝いをすればいい話ではない」と憤る。

 イージス計画が全国に知れ渡る中、町外からの影響も出始めた。移住希望者が毎年農業体験に訪れる民宿「樵屋(きこりや)」の白松博之代表(73)は「計画が持ち上がってから希望者が全く来なくなった。健康や農業への影響が見通せないのに移住したいとは思えないだろう」と険しい表情を浮かべる。

 町では計画に反対する「町民の会」に有権者の過半数が参加する。会員で演習場そばで1人暮らしの農業原スミ子さん(76)は「静かな生活を続けたいだけ。移住者も思いは同じ。イージスができれば息子や娘に帰っておいでなんて言えない」と訴える。

(2019年9月21日朝刊掲載)

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