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社説・コラム

社説 臨時国会召集 改憲より急ぐことある

 臨時国会がきのう召集され、安倍晋三首相が所信表明演説を行った。「安定した社会保障の基盤は強い経済である」と断言した上で、金看板としてきた自らの経済政策、アベノミクスに触れた。年金の支え手が500万人増え、正社員は130万人増えたと誇らしげである。

 だが国民に鬱積(うっせき)した感情をもたらす、新たな不祥事には触れずじまいだった。原敬の「常に民意の存するところを考察すべし」という言葉を昨秋の所信表明演説で引いたが、今回こそ用いるべきではなかったか。

 関西電力役員らの金品受領問題がそれである。「原発マネー還流疑惑」と呼びたいほど根が深いと言わざるを得ない。

 自民党の岸田文雄政調会長はおととい「国民の電気料金が金品に流れているのではないかという指摘もある」と述べた。一部報道では、国の電源立地地域対策交付金も福井県高浜町の建設会社や元助役を通じて関電側に還流したという。この交付金の原資は電気料金に上乗せして課される税金にほかならない。ならば国会審議を通じて、実態を解明すべきではないか。

 野党は関電関係者の国会招致を求める構えだ。ここは与野党が一致して公益事業に潜む闇にメスを入れなければ納税者、消費者の憤りは収まるまい。

 この疑惑をうやむやにするようだと、与党にとっては、消費税率10%も予期せぬ反動を招きかねない。ポイント還元制度や減税措置があるとはいえ、家計負担は増し、異なる税率への戸惑いもあろう。国際経済は不透明感を増し、国内製造業の景況感に悪影響を与えている。

 首相は税率の再引き上げについて「10年くらいは必要ない」とし、自民党の甘利明税制調査会長も「10%の枠内で」と予防線を張る。自民党内には消費税が逆風を招いたトラウマ(心的外傷)があるのだろうが、税金も公共料金も公平かつ公正に使われるかどうかが問題だ。

 立憲民主党や国民民主党などの共同会派は、発足後初めての国会論戦に挑むことになる。第2次安倍政権の発足後では、会派としての質問時間がかつてなく長く確保できる好機だ。

 むろん政権党だった旧民主党の流れの中には、消費税増税について容認論もある。同じ野党でも共産党は「5%への減税」を訴えている。こうした政策の違いはいったん棚上げした上で「1強多弱」に風穴をあける国会戦術も必要になる。いかに足並みをそろえるかだろう。

 臨時国会では、首相の宿願である憲法改正論議がどう進むかも一つの焦点だ。所信表明演説では「令和の時代にどのような国を目指すのか。その理想を議論すべき場こそ憲法審査会だ」と述べ、全ての国会議員が国民に対して負う責任を強調した。国民投票法改正案の早期成立を突破口にしたいのだろう。

 しかし原発マネー疑惑や消費税増税への対策などを後回しにしてまで、急ぐことかどうか。台風15号の政府の初動の遅れや日米貿易協定についても、野党は追及の構えを見せている。与野党の垣根を越えて全ての国会議員が議論すべきは、こうした国民の暮らしや安全・安心に直結する問題ではないのか。

 一部の議員の暴言によって国会は品格も問われている。立法府の矜持(きょうじ)を見せるべきである。

(2019年10月7日朝刊掲載)

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