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被服支廠 安全策6案 3棟耐震化84億円~全て解体4.5億円 広島県、年内にも絞る

 広島市内最大級の被爆建物「旧陸軍被服支廠(ししょう)」(南区)の傷みが激しくなり、広島県が2020年度に着手するとする安全対策について、方向性を六つの案に絞り込んだことが16日、分かった。所有する3棟それぞれについて耐震化、外観の保存、解体の手法を示してパターン分けし、概算費用は4億5千万円から84億円とはじいた。年内にも1案に絞り込み、20年度当初予算案への関連費用の計上を目指す。(樋口浩二)

 被服支廠を巡っては、県議会や専門家たちの間で「声なき被爆者」とも評される価値を重んじる意見がある一方、耐震化に多額の費用がかかる点が保存・活用の課題となっていた。県がまとめた案のうち五つは何らかの形で建物が残る。一定に費用を抑えた案もまとまったことで、長く宙に浮いてきた建物の行方が定まる公算が大きくなった。

 概算費用は1棟につき、耐震化では内装や電気工事などを除いて28億円、解体では1億5千万円かかるとの前提ではじいた。このため最も費用が大きくなるのは、3棟全てを耐震化した場合の84億円。最も少ないのは全てを解体した場合の4億5千万円となる。

 残る4案は、爆心地に最も近い1号棟だけを保存する。手法として、建物の耐震化と、耐震性を確保しないままの外観の保存の2種類を用意。その上で対象を1棟全てとするか、3分の1にするかでパターンを分けた。概算費用は6億~31億円。外観保存の場合は耐震化と比べて安価で済み、将来的な耐震化にも対応できるとしている。

 県は六つの案の取りまとめと並行して、建物の価値や今後の活用策について有識者や地元関係者たちの意見を聞いた。地元からは3棟全体の保存・活用には多額の費用がかかるとして、部分的な解体にも理解を示す意見も出ている。

 県は9月の県議会一般質問で、地震に備えた被服支廠の安全対策を20年度に始めると表明。20年度当初予算の編成作業で必要な工事費を確保するため、まずは3棟の保存規模を整理する考えを示していた。今後は六つの案について県議会の意見などを聞きながら、1案への絞り込みを図る。

 県は被服支廠の見学者が増えている実態などを踏まえて18年度、いったんは敷地内に被爆証言を聞く建物(平屋約130平方メートル)を新設するのを柱とした改修案をまとめた。しかし、県議会最大会派の自民議連から将来の財政負担の重さを懸念する声が出たため、方針を転換。19年度は1~3号棟の保存・活用の方針を整理するとしていた。

<旧陸軍被服支廠の安全対策で広島県が絞り込んだ6案>

   内容                      概算費用
1 3棟全てを耐震化                 84億円
2 1号棟を耐震化し、2・3号棟を解体       31億円
3 1号棟の3分の1を耐震化し、その他を解体    14億円
4 1号棟の外観を保存し、2・3号棟を解体       8億円
5 1号棟の外観の3分の1を保存し、その他を解体    6億円
6 3棟全てを解体                  4億5千万円

旧陸軍被服支廠(ししょう)
 旧陸軍の軍服や軍靴を製造していた施設。爆心地の南東2・7キロにあり、1913年に完成した。13棟あった倉庫のうち4棟がL字形に残り、県が1~3号棟、国が4号棟を所有する。4棟は鉄筋コンクリート・れんが造りの3階建てで、1~3号棟はいずれも延べ5578平方メートル、4号棟は延べ4985平方メートル。戦後、広島大の学生寮や県立広島工業高の校舎、日本通運の倉庫などとして利用されたが、95年以降は使われていない。

(2019年10月17日朝刊掲載)

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