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艦載機移転 影響どう判断 岩国爆音訴訟 25日広島高裁判決

 米軍と海上自衛隊が共同使用する岩国基地(岩国市)の騒音を巡り、周辺住民654人が損害賠償や空母艦載機の移転差し止めなどを求めた訴訟の控訴審判決が25日、広島高裁で言い渡される。騒音被害を認定し、過去分の計約5億5800万円の賠償を国に命じた一審山口地裁岩国支部判決から4年。控訴審の審理開始後に米軍厚木基地(神奈川県)から艦載機約60機が岩国に移転してきた。艦載機移転による騒音被害をどう判断するかも焦点となる。(松本輝、高本友子)

■騒音と賠償

 原告は、国が住宅の防音工事の助成対象とする「うるささ指数(W値)」75以上の指定区域に住む。一審判決は騒音を「違法な権利侵害」とし、提訴の3年前の2006年3月から結審(15年2月)までの過去分に限り、国に賠償責任があると判断。W値75~95の各区域に住む原告に1人当たり月4千~1万6千円を支払うよう命じた。

 一方で、滑走路が約1キロ沖合に移った10年5月以降、一部の区域以外は騒音が減ったとして月額4千円を減額し、W値75の一部区域に住む107人については0円とした。将来分の請求は認めなかった。

 控訴審は、艦載機の岩国移転が始まる直前の17年6月にスタートした。原告側は艦載機移転に伴う騒音被害の主張も追加。騒音発生回数やW値を示し、「騒音被害が重篤化している」として原告全員に月1万~2万円を支払うよう求めた。一審で退けられた将来分の損害賠償も「騒音被害が継続するのは明らか」などとして請求している。

 これに対し、国側は滑走路の移設後はほぼ全ての測定点で騒音レベルが大幅に低下したと主張。一審判決の賠償額の減額や、将来分の請求の却下を求めている。艦載機移転に伴う騒音被害については「(18年3月の)移転完了後、(19年1月の)結審までの期間が短く、客観的なデータに乏しい」(広島法務局)として主張していない。

■飛行差し止め

 原告側は控訴審で、艦載機移転によって騒音だけでなく、墜落など事故の危険性も高まっていると主張。艦載機と米軍の輸送機オスプレイの一切の離着陸、自衛隊機などの夜間早朝の飛行差し止めも求めている。国側は日米安保条約などの政府間協定に基づき、米軍機の運航には国の支配が及ばないとの「第三者行為論」を認めた最高裁判例などを挙げ、差し止めなどの訴えを退けた一審判決を正当と訴えている。

 全国の基地訴訟では第4次厚木基地騒音訴訟の一、二審判決が自衛隊機に限って夜間早朝の飛行差し止めを命じたが、最高裁は16年、「高度の公共性がある」などとして二審判決を破棄。原告側が逆転敗訴した。米軍機については差し止めを命じた判決はない。

 原告が山口地裁岩国支部に提訴して10年。滑走路の沖合移設、艦載機移転など基地を巡る状況が大きく変わる中、巨大軍事拠点と隣り合う市民の訴えに司法がどう答えるかが注目される。

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騒音「むしろ悪化」 原告団長・津田さん憤り

 「滑走路の沖合移設前後で騒音は変わらないどころか、むしろ大きくなった。一審判決は全く受け入れられない」。岩国基地北側の住宅街に暮らす原告団長の津田利明さん(73)=岩国市桂町=は語気を強める。

 1988年から住む自宅はうるささ指数(W値)80の区域に立つ。ジェット機が飛ぶたびに激しい騒音が降り注ぐ。だが一審判決では飛行差し止めが認められなかったばかりか、滑走路移設後の状況をW値75相当とみなされ、慰謝料も月4千円に半減。0円とされた原告もいる。「『こんなにやかましいのに違法じゃないのか』と怒りの声が出ている」

 岩国基地を巡る初の爆音訴訟の提訴は2009年3月。自身を突き動かしたのは国への不信感と憤りだった。事故のリスク回避と騒音軽減を目的とした沖合移設事業。それが新たな騒音をもたらす米空母艦載機移転の「受け皿」となることが許せなかった。

 10年5月、沖合へ約1キロ移った新滑走路が運用を始めた。だが飛行コースが変わり、期待した騒音軽減は実感できない。17年にステルス戦闘機F35Bが米国外で初めて配備されると「うるささは増した。襲われているような感じで恐怖すら覚える」。

 爆音でテレビの音はかき消され、電話どころか会話も成り立たない。ストレスで就寝中に歯を食いしばるのか、定年後に歯が何本も割れた。18年3月に艦載機移転が完了し、環境はさらに悪化したと感じる。「防音サッシですら触るとビリビリと振動が伝わる。耐えられる音じゃない」と顔をしかめる。

 提訴から10年。米軍機の数で極東最大級の軍事拠点に変貌した基地を前に「もっと早く、いい判決が出ていれば状況は違っていたかもしれない」との思いが募る。「静かで安全な岩国を子や孫に残したい」―。提訴から変わることのない切実な願いを胸に2度目の判決を待つ。(松本恭治)

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米軍岩国基地
 岩国市中心部に近い臨海部にある米軍基地。2010年5月、国が騒音対策として滑走路を約1キロ沖合に移した。12年には滑走路の軍民共用が始まり、羽田便などが就航した。日米両政府が06年に合意した在日米軍再編計画に伴い、厚木基地から空母艦載機約60機が18年3月までに移転。米軍機は倍増の計約120機となり、極東最大級の航空基地となった。岩国基地には他に自衛隊機約30機が所属。米軍の輸送機オスプレイも離着陸で使っている。

うるささ指数(W値)
 航空機の騒音が生活に与える影響を表す国際基準。飛行回数や時間帯を加味して計算する。W値75以上の区域が国の住宅防音工事の助成対象。岩国基地周辺では、岩国市と大竹市阿多田島の計約1万8700世帯が当てはまる。

(2019年10月22日朝刊掲載)

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