×

ニュース

岩国爆音 二審も賠償命令 広島高裁判決 増額7億3540万円 飛行差し止め認めず

 米軍と海上自衛隊が共同使用する岩国基地(岩国市)の騒音を巡り、周辺住民654人が損害賠償や米軍機の夜間・早朝の飛行差し止めなどを国に求めた訴訟の控訴審判決が25日、広島高裁であり、森一岳裁判長は過去の騒音被害に対する計約7億3540万円の損害賠償を国に命じた。一審山口地裁岩国支部判決が支払いを命じた約5億5800万円から増額した=26・27面に関連記事。(松本輝)

 一方で、控訴審開始後に米軍厚木基地(神奈川県)から移転してきた空母艦載機の騒音被害による損害賠償や将来分の騒音被害に対する賠償請求、米軍機などの飛行差し止めの請求はいずれも退けた。

 原告は、国の住宅防音工事の助成対象となる「うるささ指数(W値)」75以上の区域に住む。森裁判長は騒音を「違法な権利侵害」と認定。国が騒音軽減策として滑走路を約1キロ沖合に移した2010年5月以降も「看過できない被害を受けている」と認め、一部を除いて1人当たり月額4千~1万6千円の賠償を国に命じた一審判決をおおむね支持した。

 賠償額は、一審判決では提訴の3年前の06年から結審した15年2月までで算定していたが、控訴審の間に違法状態が続いた期間が増えたとして増額した。

 18年3月に移転を完了した艦載機については、原告側は控訴審で騒音発生回数やW値を示し「騒音被害が重篤化している」として原告全員に月1万~2万円の支払いを求めていたが、森裁判長は「基地に配備された米軍機の機数が大きく増加し、飛行回数も増加していると認められるが、騒音状況を証するに足りる資料は提出されていない」として原告の訴えを退けた。

 輸送機オスプレイや艦載機などの米軍機の飛行差し止めの訴えに対しては、米軍機の運航には国の支配が及ばないとの「第三者行為論」を一審に続いて適用して退け、自衛隊機も「行政訴訟ではなく民事訴訟での請求は不適法」とした。

 津田利明原告団長(73)=岩国市=は「飛行差し止めや騒音軽減、将来の賠償を命じる判決が出ず、非常に残念。とても受け入れられない」と話した。防衛省の中国四国防衛局の森田治男局長は「国の主張の一部について裁判所の理解が得られなかった。今後も周辺住民への騒音の影響に可能な限り配慮し、米国側にもそれを求める」とのコメントを出した。

<判決骨子>

・国は原告らに対し、過去に発生した騒音被害に限って約7億3540万円を支払え。控訴審開始後に移転してきた艦載機による騒音被害の賠償請求は認められない
・米軍機や自衛隊機の飛行差し止めは認められない
・将来分の騒音被害については、賠償額をあらかじめ認定することができない。訴えの請求権がない

岩国基地
 岩国市中心部に近い臨海部にあり広さ約790ヘクタール。2010年5月、国が騒音対策として滑走路を約1キロ沖合に移設。12年に滑走路の軍民共用が始まり羽田便などが就航した。在日米軍再編計画に伴い、米軍が18年3月までに厚木基地から空母艦載機約60機を移し、駐留する米軍機は計約120機に倍増。極東最大級の航空基地となり輸送機オスプレイも離着陸で使う。海上自衛隊は約30機を配備している。

うるささ指数(W値)
 航空機の騒音が生活に与える影響を表す国際基準。飛行回数や時間帯を加味して計算する。W値75以上の区域が国の住宅防音工事の助成対象。岩国基地周辺では、岩国市と大竹市阿多田島の計約1万8700世帯が当てはまる。

【解説】騒音対策の不備 明確化

 岩国基地の騒音の違法性が初めて司法の場で問われた岩国爆音訴訟の控訴審判決は、米軍機の飛行差し止めを退ける一方、一審に続き、違法状態にあると認め、賠償額を増額した。飛行差し止めの壁の高さをあらためて示した形だが、騒音対策の不備を明確にした点では意義がある。

 全国各地の基地訴訟で騒音被害を認めて賠償金の支払いが確定したのは、第1、2次横田基地訴訟の最高裁判決(1993年)が初めて。以来26年間、確定判決分だけで500億円超の賠償が国に命じられてきた。住宅防音工事の助成金や自治体への交付金だけでは住民への責任は果たせていないと、司法が警告し続けてきたとも言える。

 今回の広島高裁判決は、国が騒音対策として実施した滑走路の沖合移設について「騒音を一定程度、減少させたにとどまる」と断じ、移設後も違法状態が続いていると指摘した。控訴審の審議中に移転してきた空母艦載機の騒音被害については、原告による立証不足を理由に認定しなかったが、「米軍機の飛行回数も増加していると認められる」と言及した。

 裁判の原因である騒音の問題が解決されない限り、裁判闘争が繰り返され、住民は疲弊しかねない。国は違法状態の解消に向けて米国と向き合い、本腰を入れて取り組むべきだ。(松本輝)

(2019年10月26日朝刊掲載)

年別アーカイブ