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連載・特集

「学ぼうヒロシマ」教材に思い表現 学校に配布 活用さまざま

 中国新聞社が毎年、広島県全域と山口県東部の中学と高校などの生徒に配布している平和学習新聞「学ぼうヒロシマ」は、被爆体験証言などで構成するタブロイド判のカラー24ページ。8月6日の「原爆の日」前後の平和学習に役立てられているのに加え、自ら考え、思いを表現するきっかけづくりの教材としてもさまざまに活用されている。(金崎由美、山田太一、新山京子)

高森高(岩国市)

被爆体験を読み英作文

 「学ぼうヒロシマ」にある被爆証言記事「記憶を受け継ぐ」は、8人分のうち2人分について英語訳を併記している。高森高(岩国市)は、英語の授業に取り入れている。

 2年2組の32人がコンピューターに向かって英文を打ち込んでいた。「広島が原爆でどうなったのか、被爆者の証言を読み、知ってもらいたい」「皆が悲しい思いをするのが戦争です」

 17歳で被爆し、火に包まれる児童たちを助けることができなかった加藤義典さんと、16歳で被爆し、両親と姉を失った河内政子さんの体験を読み、夏休みに英語で感想文を書いた。

 担当の赤松敦子非常勤講師が「読んで終わりではなく、自分はどう考え、どうしていきたいのかを伝えることが大事」と呼び掛けながら、文法や用語をチェック。順次、英語教育の国際ネットワーク「iEARN(アイアーン)」の会員向け交流サイトに投稿した。

 読後の感想に加えて、より広い、戦争についての考えや、自分なりの平和メッセージなども添えている。現在、モロッコやクウェートなどの学校から「記事と高森高生の英作文を生徒に読ませる」などと反応が届いている。藤岡桜子さん(17)は「自分の英語が伝わるか少し心配だけど、平和についての考え方の違いなど、もっと知りたい」と返信を心待ちにする。

 生徒たちは、鶴を折り、英作文にも書いた平和メッセージを翼に書き込む作業も行った。鶴の行き先は、米国ハワイ。オバマ前大統領の母校プナホウ学園の生徒らが、真珠湾のアリゾナ記念館で来館者に配ってくれるプロジェクトだ。被爆体験の学びを、「戦争」を多角的に考え、海外交流の機会にもつなげている。

安田女子中高(広島市中区)

「作り手」交え感想語る

 「学ぼうヒロシマ」には中国新聞ジュニアライターの取材記事が盛り込まれており、中高生も「作り手」だ。ジュニアライター活動に参加している生徒を含め、平和活動に関心を寄せる安田女子中高(広島市中区)の生徒に集まってもらって感想や平和学習のアイデアを語ってもらった。

 高1の吉田舞さん(16)は、掲載された8人の被爆証言を何度も読んだ。「被爆者一人一人が想像以上に過酷な体験を乗り越え、ジレンマを抱えながらも平和の大切さを訴えていることが伝わってくる」と話す。

 「学ぼうヒロシマ」には、ジュニアライターが広島市中心部の被爆樹木を訪ね歩いた特集も掲載しており、中3の太田結愛さん(14)は紙面の被爆樹木マップに注目した。同校にも爆心地から約2・1キロで被爆したソメイヨシノがあり、その歴史を語り伝えているからだ。「校内の被爆桜を起点に、広島市内の被爆樹木を巡るワークショップを企画したい」と太田さん。

 社会科を担当する熊谷篤教諭(40)は「身近に感じたところからアイデアを得て、世界の核兵器の現状など、現在の問題に関心の幅を広げてほしい」と語る。

安芸太田中(広島県安芸太田町)

意見話し合い新聞に投稿

 広島県安芸太田町の安芸太田中は今夏、「学ぼうヒロシマ」を使って平和学習に取り組んだ。生徒は記事を踏まえた感想を書き、核兵器の恐ろしさや平和の大切さを伝えるため自身ができる事を考えた。

 8月6日の登校日。1~3年生38人は10班に分かれ、各班の担当教員が「記憶を受け継ぐ」など記事を読み上げるのを聴いた。生徒は意見や感想を話し合い、原稿用紙に向かった。

 当時同世代だった被爆者を思い「興味がないということは、戦争の恐ろしさを忘れていること」「被爆者の話を聞き、後世に伝えたい」などとつづった。3年佐々木信哉さん(15)は「街が復興しても心の傷は変わらない、という言葉が印象に残った。被爆後の様子やつらさを知り、自分ならどんな気持ちになっただろうと考えた」と振り返る。

 同中では、生徒の感想文を中国新聞の「ヤングスポット」に投稿するなどした。丸山智教諭(52)は「文章にすることで考えや学びを深め、生徒自身が『発信者』になれる意義もある。それぞれができることを考える機会に」と願う。3年藤本さりなさん(15)は「被爆者が少なくなる中、私たちが原爆や戦争のことを知り、伝えることが大切だと思った」と力を込めた。

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学ぼうヒロシマとは
 被爆体験の次世代継承に役立ててもらおうと、中国新聞社が2013年から毎年、広島国際文化財団の協賛を得て制作している。中学生用と高校生用がある。被爆証言を聞く本紙連載記事「記憶を受け継ぐ」を柱に、平和記念公園や原爆資料館の紹介、世界の核兵器保有の現状などを学ぶ記事を掲載。合わせて約22万部を印刷。広島県全域の中学・高校と、山口県東部の11市町の中学に中国新聞販売所を通じて、生徒の人数分を無料で届けている。

(2019年10月28日朝刊掲載)

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