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南方留学生 同胞の祈り マレーシア・コタバルの訪問団 広島の光禅寺に墓参り

 広島で被爆死した「南方特別留学生」ニック・ユソフさんが眠る広島市佐伯区の光禅寺に、古里のマレーシア・コタバル市からの訪問団が墓参りした。笠岡市と「友好握手都市」縁組を結んでから20周年を記念して来日し、訪問団として初めて立ち寄った。

 コタバルの市議や市職員たち18人。前住職の星月空(ひろし)さん(71)や、南方特別留学生について語り継ぐ活動を続ける市民の出迎えを受けた。墓の前で両手を掲げ、祈りをささげた。

 コタバル市広報部長のアズマン・ビン・モハマダハムさん(56)はユソフさんの親族という。インターネットで墓の存在を知りこれまでに1度訪れており、今回訪問コースに組み入れた。「日本人が墓を守ってくれていることに感謝している。帰国して、このことをもっと広く伝えたい」と話していた。

 南方特別留学生は、第2次世界大戦中に「大東亜共栄圏」建設を目指した日本政府によって東南アジア各地から派遣された205人で、ユソフさんもその一人だった。マレー半島にあるコタバルは、旧日本軍が1941年のハワイの真珠湾攻撃とほぼ同時に上陸作戦を実行した地でもある。

 広島文理科大(現広島大)へ進んだユソフさんは19歳の時、爆心地から約900メートルにあった留学生の寄宿舎「興南寮」にいて被爆した。崩れた建物から脱出し、五日市方面へ逃げたが息絶え、名前の書かれた骨つぼが光禅寺に預けられた。当時の住職がしのび、64年にイスラム教式の墓を建てて以来、弔いを続けている。(山本祐司)

(2019年11月4日朝刊掲載)

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