×

ニュース

援護対象区域 妥当性争う 「黒い雨」訴訟 審理大詰め 広島地裁 年度内にも判決

 原爆投下後に「黒い雨」を浴びたのに被爆者健康手帳の交付申請を却下したのは違法などとして、広島市や広島県安芸太田町などの70~90代の男女計85人(うち8人は死亡)が、市と県に却下処分の取り消しを求めた訴訟が広島地裁で大詰めを迎えている。国が定めた援護対象区域の妥当性を司法がどう判断するかが最大の争点。来年1月に結審し、本年度内にも判決が言い渡される見通しだ。(松本輝)

 国は被爆者援護法に基づき、爆心地から市北西部にかけてを「大雨地域」として援護対象区域に設定。この区域内で黒い雨を浴びた住民を対象に、無料で健康診断をしている。がんや白内障など国が定める11疾病と診断されれば、被爆者健康手帳を交付。医療費が原則無料になるなど、さらなる援護策が受けられる。原告はいずれも当時、大雨地域の周辺の「小雨地域」かその外側に住んでいたため、援護の対象外となっている。

調査を巡り対立

 訴訟では、国が大雨地域の根拠としている、黒い雨の降雨範囲に関する調査結果を巡り、原告と国の主張がぶつかり合う。

 この調査は1945年に広島管区気象台(現広島地方気象台)の技師たちが実施したが、原告側は「原爆投下直後の混乱の中、数人で実施された調査で、資料が不十分なのは明らか」と指摘。2008~10年に住民約3万7千人を対象に調べ、黒い雨は大雨地域の約6倍の範囲で降ったと推定した広島市の報告書などを挙げ、援護対象区域の拡大を求める。

 一方、国側は「(45年の調査は)現在の科学的知見を前提としても妥当」と反論。市の調査は正確性に疑義があるとし「大雨地域以外で高濃度の放射性物質が降下したと認められる科学的知見は存在しない」と主張している。

原告が次々証言

 口頭弁論では原告が次々に証言台に立ち、74年前の状況を説明。「着ていた白いシャツは、雨が当たった所に黒い染みができた」「黒い灰などが降ってきた」などと語った。

 現在の安佐北区にあった綾西国民学校(現亀山小)2年だった森園カズ子さん(82)は学校からの帰宅中に黒い雨を浴び、ずぶぬれになったと説明。卵巣に腫瘍ができたり甲状腺機能低下症になったりと病気続きで「国は黒い雨を浴びた私たちと向き合ってほしい」と訴えた。一方、国側は「黒い雨を浴びた客観的証拠はない」と反論している。

 黒い雨を巡る全国初の訴訟は提訴から4年が経過し、来年1月20日の次回口頭弁論で結審する予定。田村和之・広島大名誉教授(行政法)は「大雨地域しか援護対象ではない現在の制度は、黒い雨による内部被曝(ひばく)の影響を過小評価している。訴訟は援護対象区域の拡大だけでなく、内部被曝の影響を適切に評価するよう国に迫る意義がある」と話している。

黒い雨
 原爆投下直後に降った放射性物質や火災によるすすを含む雨。国は1945年の広島管区気象台の調査を基に長さ約29キロ、幅約15キロの卵形のエリアに降ったとし、76年、中でも激しい雨が降ったとする大雨地域(長さ約19キロ、幅約11キロ)を援護対象区域に指定した。一方で気象庁気象研究所の増田善信・元研究室長が88年、気象台の調査に比べて約4倍の範囲で降ったとの調査結果を発表。広島市も2010年、約6倍の範囲で降ったとする調査報告書をまとめた。

(2019年11月14日朝刊掲載)

年別アーカイブ