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被爆翌年 広島市民を勇気づけた 「第九伝説」ムシカ閉店へ

 被爆翌年の大みそかに「第九」のレコードを流し、広島市民を勇気づけた「純音楽茶房ムシカ」(広島市南区西蟹屋)が、来年3月末で閉店することが20日、分かった。店主の梁川忠孝さん(76)や支援する常連客の高齢化が主な理由で、惜しむ声が上がる。(西村文)

 梁川さんの父義雄さん(故人)が1946年8月、南区猿猴橋町で開店。その年の12月31日、闇市で手に入れたベートーベンの交響曲第9番のレコードを蓄音機でかけた。雪降る夜、店内に入りきれない人々が窓に耳を押し当て、「歓喜の歌」に涙したというエピソードで知られる。

 中区胡町に移転後、66年から長男の梁川さんが店主を務めた。やがて閉店、廿日市市での再開を経て、2000年に現在地へ移った。近年、喫茶は休業状態で、店内の貸しホールを中心に営業してきた。創業時の店舗を復元したホールは演奏家に親しまれ、毎月10回以上の演奏会が開かれる。

 ホールの催事を手弁当で支えてきた長年の常連客には既に他界した人も。「大手コーヒーチェーンが街中にあり、音楽を楽しめる場所も増え、音楽喫茶は役目を終えた。楽しい思い出とともに静かに閉めたい」と梁川さん。店内に「第九」を流す大みそかの恒例行事は今年で最後となる。3月の最終日も愛用のちょうネクタイを結んでカウンターに立つつもりだ。

 戦後の音楽史を研究する「ヒロシマと音楽」委員会の能登原由美委員長(48)は「復興を成し遂げた世代への敬意がムシカの存続を支え、『第九伝説』を広めてきた。なくなるのは寂しい」と惜しむ。当時のレコードなどゆかりの品について「戦後復興史の貴重な資料であり、公的な施設などで保存するべきだ」と話している。

(2019年11月21日朝刊掲載)

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