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社説・コラム

天風録 『ローマ教皇』

 若い頃、赴任したいと望んで以来ずっと、その人は日本に共感と愛着を抱いてきたという。とはいえ個人的な思いでの訪日ではない。被爆者に祈りをささげ、核廃絶を訴えるため。ローマ教皇フランシスコがきのう初めて長崎を訪れた▲爆心地公園で被爆者から花輪を受け取った教皇。原爆落下中心地碑に手向けると、こうべを垂れ犠牲者のために黙とうした。雨が降りしきる中、じっと。胸に去来するものの中に、あのきょうだいの顔もあっただろう▲原爆投下後の長崎で撮影されたという一枚の写真。息絶えた幼い弟をおぶった「焼き場に立つ少年」である。胸を打たれた教皇は「戦争がもたらすもの」と言葉を添えたカードにして世界で配った。そして被爆地を訪れる▲「戦争は人間のしわざ」。ヨハネ・パウロ2世は38年前、広島で述べた。教皇フランシスコはきのう長崎で「核兵器のない世界は可能であり必要である」と訴えた。夜は広島で「真の平和は非武装の平和しかない」と▲各国の指導者に向けた力強いメッセージである。バチカンは核兵器禁止条約をいち早く批准し、教皇は核兵器廃絶へ信念ある行動を見せる。唯一の被爆国も動きださねばならない。

(2019年11月25日朝刊掲載)

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