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識者の受け止め ローマ教皇訪日

対話と違い認める重要性 体現

NGO核兵器廃絶国際キャンペーン(ICANアイキャン) 国際運営委員の川崎哲(あきら)氏(51)

 広島、長崎の2カ所でのメッセージをセットにして捉えるといい。長崎では、核兵器禁止条約にはっきり触れるなど政治家や国際社会に向けて言及していた。広島では一人一人に対して情緒的に訴え、心を打つものだった。

 特に「記憶し、共に歩み、守ること」の三つを挙げ、ここ広島の持つ世界的な意味、価値を強調していた。ヒロシマの記憶を忘れることなく被爆地から行動を起こしてほしい、という思いも表現した。また、諸宗教の代表とあいさつし、多くの被爆者とじっくり向き合った姿は、対話と違いを認める重要性を体現していた。

 広島、長崎でのメッセージは世界各地で報道され、刺激を受けて行動する人たちが増える。核兵器禁止条約発効のために必要な批准国50カ国まであと17カ国。批准に向けて加速してほしい。(二井理江)

行動につなげることが大切だ

元原爆資料館長 原田浩氏(80)

 ローマ・カトリック教会の頂点に立つ指導者が被爆地から発信したメッセージは13億人超もいる世界中の信徒に届く。そして、それぞれが自国の政治に参加するだろう。宗教の力によって世界が連帯する重要性をあらためて感じた。

 じれったい思いもある。教皇は「核兵器なき世界」を強く訴えたが、日本政府は核兵器禁止条約に背を向けている。教皇のメッセージに被爆国が応じていないのだ。

 教皇の被爆地訪問を「良かった」で終わらせてはいけない。そのメッセージを被爆地の市民一人一人が正面から受け止め、どう行動につなげていくかが問われる。日本政府も、核兵器禁止条約へのスタンスを変えてもらいたい。

 来年は被爆から75年。高齢の被爆者に残された時間は少ない。被爆地の運動を次の世代につなぐことを急がなければならない。(東海右佐衛門直柄)

保有国指導者への影響 不透明

駐バチカン元公使 徳安茂氏(68)

 「核兵器による均衡」に転換を迫り、核兵器保有国に強力なメッセージを送った。教皇は、米ロ間の中距離核戦力(INF)廃棄条約の失効をはじめとした核軍縮の停滞にストップをかけ、何とか核兵器廃絶につなげる一歩にしたいと考えていると思う。

 ただ、核兵器を保有する世界の指導者への影響は不透明だ。トランプ米大統領にはまず効果はないだろう。トランプ氏は「力による平和」を信じているからだ。米国ではカトリック人口が増大している。来秋の米大統領選を通じて核軍縮の必要性を認識させることができるかもしれない。

 来春の核拡散防止条約(NPT)再検討会議についても、教皇のメッセージによっていきなり前進するとは考えにくい。日本政府は、核の現実的な脅威について国内外の関心や議論を高める取り組みが求められている。(白石誠)

(2019年11月25日朝刊掲載)

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