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社説・コラム

『記者縦横』 被爆地の記憶 届いたか

■報道部 明知隼二

 ローマ教皇フランシスコが24日、広島を訪問した。戦争への原子力の使用を「犯罪」と断じ、核兵器の保有も厳しく批判するメッセージは、38年前にヨハネ・パウロ2世が残した「戦争は人間のしわざ」との言葉とはまた違った形で、「ヒロシマ」から世界への力強い発信となった。

 メッセージの中で印象的だったのは「記憶」というキーワードだ。被爆の事実と記憶を次世代につなぐことが、より正義にかなった将来を築く―。体験を語る多くの被爆者がこのメッセージに励まされただろう。原爆資料館の運営や被爆建物の保存などを担う行政にとっても、平和施策の在り方を点検する指針となり得る。地元の報道機関に身を置く私たちもまた、正面から受け止めるべき言葉だ。

 一方、1日で両被爆地を訪れる厳しい日程の中、平和記念公園(広島市中区)での滞在時間は51分。市が望んでいた原爆資料館の見学はかなわず、集いの中で被爆証言に割かれた時間はわずか6分半だった。被爆地の側から手渡すべき「記憶」が届けられたのかは、疑問が残る。

 取材の過程では「資料館をなぜ見ないのか」「数分の証言では何も分かりはしない」との声も聞いた。過密日程の中、なお広島訪問に時間を割いた教皇の熱意は疑い得ない。それでも、これは被爆者や遺族の偽りない気持ちでもあるだろう。世界に発信された「ヒロシマ」のもう一つの声として、ここに書き記しておきたい。

(2019年11月29日朝刊掲載)

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