×

ニュース

世界へ広がる被爆樹木 「緑の遺産ヒロシマ」 15ヵ国で根付く

 被爆樹木の種や苗を世界各地に送る、市民団体「緑の遺産ヒロシマ」(広島市中区)の活動が、着実に根を広げている。2011年7月のスタートから間もなく2年。日本を含む15カ国で平和を願う被爆地広島の心とともに育っている。(増田咲子)

 活動には、広島市植物公園や樹木医らも協力。爆心地から約2キロ以内にある被爆樹木のうち、アオギリや、イチョウ、エノキ、柿、クスノキ、クロガネモチ、センダン、ナツメの約8千の種や苗を、希望する国内外の学校や団体などに送った。

 検疫を経て環境に合った樹木がアフガニスタンやアルゼンチン、イラン、南アフリカなどで根付いている。

 「どんなに苦しくても立ち上がる希望の象徴として、ヒロシマのメッセージを届けたい。人々が守ってきた被爆樹木は、世界遺産に匹敵するほどの宝だ」。活動を発案した、国連訓練調査研究所(ユニタール)広島事務所の元所長ナスリーン・アジミさん(54)=中区=は強調する。

 発育状況を広島側に報告してもらうなど、種や苗を送った後も交流は絶やさない。シンガポール国立大ではクスノキが成長。被爆樹木の世話をする学生プロジェクトも誕生し、12年12月には学生の一人が広島を訪れ、親木を見たり、木の育て方を学んだりした。

 ロシアのイルクーツク国立大付属植物公園では、被爆樹木のコーナーが設けられ、イチョウやアオギリを植えている。折り鶴を飾り、「原爆の子の像」のモデルとなった佐々木禎子さんの絵本の読み聞かせを行うなど、平和学習の場としても活用されている。

 スイス・ジュネーブにある赤十字国際委員会(ICRC)本部では、今年の広島原爆の日の8月6日に、イチョウを植える、という。

 今後は、旧ソ連時代に核実験が繰り返されたカザフスタンや、米国にも広げていく。アジミさんと一緒に活動を始めた、NPO法人ANT―Hiroshima(アント、中区)の渡部朋子代表(59)=安佐南区=は「命を届けているのと同じ意味がある。樹木の世話を通して命や平和の大切さを感じてほしい」と願っている。

(2013年4月22日朝刊掲載)

年別アーカイブ