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原爆病院の「美容室」が幕 調髪ボランティア60年以上 南区のニュー双葉

 広島赤十字・原爆病院(広島市中区)の入院患者に調髪ボランティアをしてきたニュー双葉美容室(南区)が4日、同病院で最後の奉仕活動をした。60年以上続けてきた年2回の「院内美容室」。店舗を構える広島駅ビルの建て替えに伴い来年3月に閉店するため、活動にも幕を下ろした。「続けてこられたのは病院と周りの協力のおかげ。今は感謝の気持ちだけです」。社長の沖絹子さんは、晴れやかな表情を見せた。(明知隼二)

 「早く良くなるとええねえ」「きれいにして正月を迎えんとね」。この日は沖さんたち4人が訪問。66~89歳の入院患者11人と言葉を交わしながら手際よく髪を切りそろえ、ドライヤーで整えた。被爆者の山田恵さん(77)=南区=は「優しくしてもらい、ありがたかった。これからも続けてほしい」と残念がった。

 「年2回の私たちの大切な行事。自分の祖母に接するような気持ちで続けてきた」と沖さん。美容室の初代社長で被爆者だった故沖従子(よりこ)さん(1982年に58歳で死去)が57年、広島原爆病院(当時)に入院した経験から発案。毎年夏と冬、スタッフと一緒に病院を訪ねた。

 沖さんは従子さんの死後、沖家に嫁ぎ、活動をつないだ。多い時には60人を超える患者が集まり、涙を流して感謝する人もいた。「うれしかったのは私の方」と沖さん。ただ近年は利用者が減り、自らも年を重ねた。駅ビルの建て替えで店をたたむのを区切りに奉仕活動を「やめどき」と判断した。

 同美容室が積み重ねた活動は計124回。詳細な記録はないが、同病院は延べ約5千人が利用したとみる。古川善也院長は「被爆者や患者にとって、どれだけ心の安らぎになったか。言葉では言い表せない」と感謝する。沖さんは笑顔で活動を振り返り、つぶやいた。「またこの季節が来ると、さみしくなるかもしれませんね」

(2019年12月5日朝刊掲載 )

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