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社説・コラム

天風録 『辺野古土砂投入1年』

 人々の心を癒やす施設だから、時間をかけて、建築すること自体にも意味があったのだろう。今春、大火に見舞われたパリのノートルダム大聖堂は完成まで180年を要した。ドイツ・ケルンの大聖堂に至っては600年も費やした▲こちらは、今のペースでいけば1世紀はかかる見通しだ。沖縄の米軍普天間飛行場の移設先とされる辺野古沿岸部の埋め立てである。土砂投入を始めて1年過ぎたが、計画した量の1%しか進んでいない。人生100年時代とはいえ、気が遠くなる▲軟弱地盤が見つかったため、工期も経費も膨らみそうだ。ジュゴンが泳ぎ、サンゴ礁に彩られた海は透き通っていたのに、工事の先行きは不透明。移設まで大聖堂並みの時間を要する恐れもある▲おまけに国際自然保護連合が先日、ジュゴンの絶滅危険度を最高レベルまで引き上げた。工事により藻場が失われれば深刻な障害になるとも指摘している。国の対応策は期待できるのか▲沖縄県は埋め立てを認めず抵抗を貫く考えだ。2月の県民投票で「反対」が7割を超えた民意からも後押しを受ける。政府が時間を費やすべきは、地元との溝を深めることではなく、埋めることではないのか。

(2019年12月15日朝刊掲載)

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