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被爆建物減少に危機感 被服支廠巡り広島市長

 広島市内で最大級の被爆建物「旧陸軍被服支廠(ししょう)」3棟を巡り、所有する広島県が示す「2棟解体、1棟の外観保存」の原案に対して、広島市の松井一実市長は18日、全棟の保存を求めた。被爆建物の保存への危機感や、被服支廠を「物言わぬ被爆者」として保存を求める被爆者たちの動きが背景にある。(明知隼二、樋口浩二)

 「将来被爆者がいなくなっても、被爆の実相を伝える原点として被爆建物は残っていく」。松井市長は記者会見で、被爆建物の保存の意義を改めて語った。

 市は1993年度、被爆建物の登録と、民間所有者による保存工事への補助を始めた。原爆ドーム(中区)をはじめ、民間所有を含む86件を登録。老朽化などでピーク時の96年度末の98件から減少傾向が続く。

 被服支廠の4棟については、所有する国と県に市を加えた3者で、保存と活用に関する事務レベルの研究会を2016年度から続ける。ことし11月末の会合で県から原案を聞いた市は、国と県に全棟保存の意見を伝えた。市幹部は「(被爆建物を所有する)民間にさえ保存をお願いしている。いわんや被服支廠は公の所有だ。考える余地がある」と強調する。

 1号棟の外観を保存し、2・3号棟を解体する工事を20年度の着手を念頭に検討する県。湯崎英彦知事は県民の意見や、安全対策を急ぐ必要がある点なども踏まえて最終判断をする考えを示しており、より慎重な対応を求めた形だ。

 被服支廠の敷地内で被爆し、運び込まれた負傷者を救護した中西巌さん(89)=呉市=は、現地で証言活動を重ねる。「全棟保存を明確に表明してもらい、心強い。これを機に国と県、市が手を取り合い、建物をどうよみがえらせるか真剣に考えてほしい」と求めた。

 被爆者団体からも評価する発言が相次いだ。県被団協の佐久間邦彦理事長(75)は「大きさも含め、広島の軍都としての側面も伝える重要な建物」と指摘。もう一つの県被団協(坪井直理事長)の箕牧(みまき)智之理事長代行(77)は「県だけに押しつけず、県民それぞれが守り続ける覚悟が求められる」と話した。

 鉄扉が爆風でゆがみ、原爆被害の強烈さを伝える被服支廠。詩人の峠三吉は救護所の惨状を詩「倉庫の記録」につづった。「広島文学資料保全の会」の池田正彦事務局長(73)は「文化的価値も極めて高い」と指摘する。反戦・平和を訴えた画家の故四国五郎さんが徴兵前に勤めた場所でもある。2人の作品群の展示場所などに生かす案を示し「解体の結論ありきではなく、市も主体的に活用策づくりに行動してほしい」と求めた。被爆者や市民が納得できる結論を導くには、多様な観点からの議論が求められる。

(2019年12月19日朝刊掲載)

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