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長尺版 深まる人間描写 「この世界の(さらにいくつもの)片隅に」公開

片渕監督「すずの存在浮き彫り」

のん「感情のうねり増えた」

 戦時下の呉市などを舞台にした大ヒットアニメ映画に、約40分の新規シーンを加えた「この世界の(さらにいくつもの)片隅に」が20日、公開された。片渕須直監督が11月下旬、登場人物の声を演じたのん、岩井七世と一緒に広島市を訪れ、「前作では描かれなかった、登場人物たちの新たな一面に触れてほしい」と語った。(西村文)

 昭和19(1944)年、絵を描くのが得意な18歳のすず(声・のん)は結婚とともに広島市から呉市に移り住み、夫・周作たち家族と新たな生活を始める。食料や物資の不足に苦労しながらも、日々のくらしに工夫を重ねる。ある日、闇市の帰りに迷い込んだ遊郭で、同世代の女性・リン(声・岩井)と出会い―。

 前作「この世界の片隅に」は製作費不足のため、広島市出身の漫画家こうの史代さんの原作からリンにまつわる物語を省き、完成にこぎ着けた。2016年11月に公開されると、予想をはるかに上回る210万人の観客動員を記録。ヒットを受けて、今回の長尺版の製作が決まった。

 「リンの物語が加わることで、すずさんという人間の存在がより浮き彫りになった」と片渕監督。戦時下の日常生活を丹念に描き、戦争の悲惨さを観客に訴え掛けた前作。「さらに人間描写を突き詰めた。戦争で人生の意味を失ってしまった人々に思い至ってほしい」と力を込める。

 前作で声優として高い評価を受けたのん。3年ぶりに挑んだアフレコについて「感情にうねりがあるシーンが増え、こんなにもすずさんは必死に自分の居場所を探していたんだ、と気づかされた」。リン役の岩井は印象的な場面として、満開の桜の木に登ってすずと語り合うシーンを挙げ、「前作で知らなかったすずさんの秘密を、打ち明けられた気持ちになった」と明かす。

 広島来訪時に広島国際映画祭の先行上映会でトークに登壇した3人は、ファンから熱い声援を浴びた。片渕監督は「すずさんのふるさとである広島に、新たな作品で帰ってこられてうれしい。前作とは違った一面を見せるすずさんに、映画館で会ってほしい」と願っていた。

(2019年12月21日朝刊掲載)

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