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社説・コラム

社説 自衛隊の中東派遣 危うさ拭えないままだ

 中東に向け、政府は27日にも海上自衛隊の派遣を閣議決定する。防衛省設置法の「調査・研究」に基づく派遣である。

 日本関係船舶の運航を守れるのか。核合意を巡り、米国とイランが角突き合わせる中、不測の事態に巻き込まれないのか。数多くの疑問が残ったままである。これでは、派遣ありきと言われても仕方あるまい。

 当初は不要としていた閣議決定の手続きを追加し、国会への報告も1年ごとにするとした。目的や歯止めの曖昧さなどに、与党内からも懸念がくすぶっているからだろう。

 そもそも「調査・研究」の主眼は情報収集に他ならない。武器の使用は、正当防衛と緊急避難の場合に限られる。事態が急変すれば、自衛隊法に基づく海上警備行動に切り替える方針という。その際、発令までの手続きと緊急対応との間に、無理は生じないのだろうか。

 また、海上警備行動の対象は国際法上、通常は日本籍の船舶に限られるとされる。日本関係船舶のうち、日本籍の船は1割にすぎない。残る9割の、パナマなど外国籍の船の保護は、進路妨害や警告音といった対応しかできない―との見方が強い。

 法的にも、安全確保という実際の運用面でも想定される数々の危うさが拭えていない。

 緊張の高まっている海外への派遣で、軍事的行動に及ぶ恐れもある。国会の事前承認を省く理由が分からない。

 今回、政府は新たな部隊行動基準を策定するが「公表しない」という。「国会審議を避けるためだ」と野党から批判が相次ぐのは当然だろう。

 共同通信社が今月中旬に行った世論調査で、自衛隊の中東派遣については賛成が約33%、反対は約51%に及んでいる。政府は、国民の不安や疑問にしっかり耳を傾ける必要がある。

 日本に原油を運ぶタンカーは今年6月以降、被害を受けていない。それでも派遣を急ぐのはなぜか。来年1月に活動を本格化させる米国主導の有志連合に足並みを合わせるためだろう。

 安倍晋三首相は先週、イランのロウハニ大統領と会談した。自衛隊派遣について「有志連合とは一線を画す」と説明し、一定の理解を得たと言うものの、有志連合との連携次第ではイランの不信を招きかねない。

 イランへの刺激を避け、ホルムズ海峡などは活動地域から外すという。とはいえ肝心な船舶の安全を守るには今後、連携を図ることが迫られよう。

 事を荒立てず、米国、イラン双方の顔も立てる。そんな都合のいい策など、あるだろうか。

 いったん自衛隊を派遣すれば、米国とイラン両国の間で摩擦がエスカレートし、巻き込まれる可能性は否定できない。米国からのさらなる要求が強まることも懸念される。

 専守防衛の自衛隊には、憲法による制約がある。国会で十分な審議をし、歯止めを示しておくことこそ、米国の要求にも毅然(きぜん)と対応する根拠になる。国際社会の信頼や隊員の安全にもつながるはずだ。

 日本は石油の8割を中東地域に頼っている。航路の安全を守るためには中東の安定が欠かせない。イランと友好関係を築いてきた日本は、米国との間を取り持つ外交で役割を果たすことこそ最優先にすべきである。

(2019年12月23日朝刊掲載)

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