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連載・特集

中国地方2019回顧 文芸

ゆかりの作家 文壇で注目

被爆75年へ多彩な表現も

 中国地方ゆかりの作家たちが文壇で脚光を浴びた1年となった。地元の文芸活動への期待も膨らむ。被爆75年を控え、写真絵本や小説などさまざまな表現で原爆を伝える取り組みも目を引いた。

 広島市安佐南区出身の今村夏子(39)の「むらさきのスカートの女」が第161回芥川賞に輝いた。古里の広島について「18歳まで育った大事な場所。今後も必ず何かの形で小説に出てくる」と語ったのが印象的だった。同直木賞には、小学6年から高校卒業までを岡山市で過ごした原田マハ(57)の「美しき愚かものたちのタブロー」がノミネートされた。

 来年1月に決まる第162回直木賞の候補作には、尾道市因島出身の湊かなえ(46)の「落日」が選ばれた。受賞すれば広島県出身者としては1938年の井伏鱒二以来2人目の快挙となる。

 開高健ノンフィクション賞は大竹市出身の浜野ちひろ(42)の「聖なるズー」。菊池寛賞は、呉市の大和ミュージアム館長の戸高一成(71)が全11巻に及ぶ「海軍反省会」の編者として、出版したPHP研究所と共に受賞した。内田百閒(ひゃっけん)文学賞の最優秀賞は広島市安佐南区の小浦裕子(43)の「月痕(げっこん)」に贈られた。女性の出産と胎盤にまつわる習俗を題材とし、異彩を放った。

 本離れが叫ばれる中、地方の出版文化を盛り上げる取り組みが続いた。出版社のロゼッタストーン(周南市)は「あなたも出版プロデューサー」を開始。埋もれた書き手を発掘し、地方から全国出版を目指す。

 広島県内の書店員たちが選ぶ広島本大賞は9回目。小説部門に作家・フリーライターの清水浩司(48)の「愛と勇気を、分けてくれないか」、ノンフィクション部門にノンフィクション作家の石井光太(42)の「原爆 広島を復興させた人びと」が決まった。

 来年、被爆75年を迎える広島。児童文学作家の指田和(52)は、原爆により全滅した家族の生前の写真で構成する絵本「ヒロシマ 消えたかぞく」を刊行。小説家長崎尚志は原爆孤児たちを描いた長編ミステリー「風はずっと吹いている」を手掛けた。いずれも来春に発表される第10回広島本大賞にノミネートされている。

 貴重な資料の発見や公開もあった。被爆作家原民喜の遺書が北海道立文学館で見つかった。当時、札幌にいた文学仲間の詩人長光太に宛てていた。山口市の中原中也記念館では、同市出身の詩人中原中也の作品「春の日の歌」の直筆原稿が初めて公開された。

 広島市出身の児童文学者鈴木三重吉の足跡を外国人にも伝えようと、生誕の地碑(中区)に英訳付きの説明板が設置された。大学教授やマスコミ関係者たちを中心に発足した広島ペンクラブは創立70周年を迎えた。

 津山市出身の作家重松清(56)が中国文化賞に選ばれた。芥川賞選考委員を今夏に退任した高樹のぶ子が選者を務める第51回中国短編文学賞。大賞には、尾道市立大生の則直真衣(21)が兄の失踪に揺れ動く弟たち家族を描いた「月の人」が輝いた。

 訃報も届いた。太平洋戦争と女性の関わりを掘り下げた「銃後史ノート」で知られる女性史研究家加納実紀代が他界した。広島の被爆者で、78歳だった。東広島市の詩人、井野口慧子が75歳で亡くなった。=敬称略(増田咲子)

(2019年12月27日朝刊掲載)

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