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「被爆前後」8・6にVR体験 福山工高生、爆心地で計画

 原爆投下から75年となる今年の8月6日、福山工業高(福山市)の生徒が原爆ドーム前で、投下前後の様子をバーチャルリアリティー(VR)で体験するイベントを開く。「一発の爆弾が街を一瞬で破壊したイメージを明確に伝えたい」と風景を精緻に再現。VRゴーグルを掛ければ目線の向きに合わせて、被爆者が目撃した街の姿が立ち現れる。

 雲一つない青空の下、広島県産業奨励館(現原爆ドーム)の前に立つと周囲には元安川や民家の並ぶ風景が広がる。サイレンに続き、上空の米軍機エノラ・ゲイから何かが落下するのが見えた瞬間、爆音とともに視界が真っ白に―。VRゴーグルを装着すると、まるで8月6日の朝、爆心地に立った感覚になる。

 同校の計算技術研究部の生徒は5年前から、原爆ドームから徒歩約1キロ圏の様子を歩いて体験できるVRの制作を進めている。当時の写真、建物設計図などを参考に建物の正確な位置や構造を再現。東京や新潟など県外の被爆者にも会いに行き、出来栄えを確認してもらった。

 「75年たった今も鮮明に覚えている被爆者にとって、原爆で失われた大切な場所。当時を知らない私たちも新たな事実を知ることができる」と2年柿原惟人(ゆいと)さん(16)。顧問の長谷川勝志教諭(54)を中心に生徒たちで文献を集め、詳しい史料が見つかるたびに作り直してきた。

 昨年秋、持ち運びできるVRゴーグルを使ったVR制作に着手。外国人にも分かりやすく伝えるため、生徒が英語のナレーションも吹き込んだ。2年石岡宏望(ひろむ)さん(17)は「英語は得意じゃないけれど、限られた時間で一人でも多くの人に原爆の恐さやつらさを伝えたい」と話した。

 8月6日は、原爆ドーム前で持ち運べるVRゴーグルを使い「VR奨励館」の体験会を開く。同5日には中区の広島グリーンアリーナでVRゴーグルとパソコンを使い被爆前後の街を歩く「VR爆心地」の体験会も計画する。顧問の長谷川教諭は「制作でお世話になった被爆者も亡くなられている。思いを継承するという約束を生徒と一緒に果たしたい」と語る。(湯浅梨奈)

(2020年1月17日朝刊掲載)

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