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放影研 資料デジタル化 被爆者カルテや医師メモ 1000万枚以上

一元管理へ新組織を準備

 放射線影響研究所(放影研、広島市南区)は、長年の調査で蓄積した被爆者のカルテなど膨大な資料をデジタル化し、一元管理する新たな組織「研究資源センター」を設ける準備を進めている。世界的に貴重な資料の散逸を防ぎ、研究に活用する。試験的にデータベースの構築を始めており、2021年度をめどにセンターの運用方法を固めたいとしている。(明知隼二)

 放影研は、被爆者や被爆2世を対象とした健康調査を続けており、保存するカルテや問診票、被爆状況の見取り図、医師のメモなどの紙資料は、推定で約1千万~1500万枚にのぼる。このままでは災害などで失われるリスクがあるほか、研究者にとっても各データの比較、分析をしづらい状況となっている。

 紙資料を全てデジタル保存し、内容は匿名化した上でデータベース化する方針。浴びた放射線量や病歴などの情報を基に横断的に分析するなど、研究に生かしやすいシステムを構築する。将来的にはセンターに各研究部門が保管するデータや、被爆者の血液試料などの情報も全て集約。個人情報を厳重に管理しながら、データベースを生かして外部の研究機関との共同研究も増やしたいとする。

 当面、大量の資料をスキャンして整理する手法や、研究に適したデータベースの仕組みを詰める。19年度からは米国の専門家を招いて試験的な作業を始めており、同年度を含む3年程度で具体的な手法を固め、本格稼働につなげる方針でいる。ただ、実際のデジタル化は10年単位の作業になると見込む。

 センター設置の方針は14年、外部の有識者たちでつくる科学諮問委員会で放影研が公表。資料のデジタル保存と活用について国内外の事例調査を進めてきた。エリック・グラント主席研究員は「ようやく試行段階まで進められた。まずは被爆者の協力で得られた世界的にも貴重な資料を、確実に守る体制を整える」と説明。その上で「被爆者の理解を得ながら、研究への活用を進めたい」と話す。

 また放影研は建物の老朽化などを受けて移転を検討している。18年度に業者に委託した調査では、市が移転先候補に提案している市総合健康センター(中区)への移転が「可能」とされた。

放射線影響研究所(放影研)
 原爆放射線の長期的な影響を調査するため、1947年に設立された原爆傷害調査委員会(ABCC)が前身。その後、広島、長崎を拠点に約12万人を対象に調査を開始。75年に放影研に改組し、日米両政府が共同出資で運営する。被爆者のがん発生率やがんによる死亡率と放射線量との関連などを調査。被爆2世、胎内被爆者に関する研究も続けている。ABCCの設立当初に治療よりも調査を優先したことに批判もあり、2017年に丹羽太貫理事長が「重く受け止め、心苦しく残念に思っている」などと過去への反省と研究に協力する被爆者たちへの謝意を表明した。

(2020年1月23日朝刊掲載)

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