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2棟解体 先送りの公算大 広島の被服支廠 県、動向見極め判断へ

県議会 強まる慎重論

 広島市内最大級の被爆建物「旧陸軍被服支廠(ししょう)」(南区)で、広島県が安全対策の原案として示した2020年度の2棟の解体着手を先送りする公算が大きくなっている。原案への反対が60%を占めた県の意見公募などを踏まえて、原案を支持してきた県議会最大会派の自民議連(33人)の幹部に慎重論が浮上したため。県は県議会の動向も見極めながら、20年度当初予算案にどんな費用を計上するかを最終判断する。(村田拓也、樋口浩二)

 県が19年12月に公表した安全対策の原案によると、保有する3棟のうち爆心地に最も近い1号棟の外観を保存し、2、3号棟を解体・撤去する。2棟の解体は設計を経て20年度に着手、22年度末に完了すると掲げた。湯崎英彦知事は今月21日の記者会見で、県議会とも議論をして最終的な方向性を定めるとしている。

 湯崎知事の県政運営を支える自民議連では当初、原案について「建物を有効活用し、地震で倒壊した場合のリスクも排除できる現実的な案だ」などと評価する声が大勢だった。その後、県が今月16日に締め切った意見公募で、反対60%、賛成34%という速報結果が判明。幹部から20年度の解体着手への慎重論が出始めた。

 意見公募の前後には、市民団体「旧陸軍被服支廠の保全を願う懇談会」が、全棟保存を求める2700人分の署名を県に提出。県被団協(坪井直理事長)や県原水禁なども同様の要請をしたほか、現地では見学会などのイベントが相次ぐ。今月23日には安倍晋三首相が衆院本会議での代表質問に対して「県の議論を踏まえ、国として対応したい」などと答弁した。

 これらの動きも受けて自民議連は近く、幹部会議で対応を協議する。ある幹部は「さまざまな意見がある中、このタイミングで20年度の解体着手はできない。『2棟解体、1棟の外観保存』の方針を維持しながら、引き続き議論する形が望ましい」と展望する。

 被服支廠の保存・活用を巡り、県は18年12月、1号棟を集中的に補修し、敷地内に被爆証言を聞く建物を新設するなどとした改修案をまとめた。これに対し、自民議連の幹部たちが19年度当初予算の編成過程で、財政負担の重さへの懸念を伝達。県が改修案の実施を見送った経緯がある。

 このため県側には「自民議連がまとまれば、その意見を尊重する」(県幹部)との声がある。議会運営で自民議連と協調する民主県政会(14人)は「20年度の解体着手は時期尚早」、公明党議員団(6人)は「全棟保存」の立場。県が今回、2棟の解体の先送りに転じても、県議会(64人)の理解を取り付けられる環境は整っている。

 県は安全対策の原案で、1号棟の外観保存に5億円、2、3号棟の解体に3億円が必要とする。ブロック塀が倒れて女児が亡くなった18年6月の大阪府北部地震を受けて早期の安全確保が必要として、関連経費の20年度当初予算案への計上を探ってきた。解体を先送りする場合、解体に向けた設計費の計上を見送る案などが想定される。

旧陸軍被服支廠
 旧陸軍の軍服や軍靴を製造していた施設。1913年の完成で、爆心地の南東2・7キロにある。13棟あった倉庫のうち4棟がL字形に残り、広島県が1~3号棟、国が4号棟を所有する。県は築100年を超えた建物の劣化が進み、地震による倒壊などで近くの住宅や通行人に危害を及ぼしかねないとして、昨年12月に「2棟解体、1棟の外観保存」の安全対策の原案を公表。2020年度に着手し、保存は21年度、解体は22年度の完了を目指すとした。4号棟については、国が解体を含めて検討している。

(2020年1月27日朝刊掲載)

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