×

社説・コラム

『潮流』 戦後復興のシンボル

■論説委員 番場真吾

 風車に似ていることから、ウインドミルといわれる。腕を豪快に回して投げるソフトボールの投法である。若い頃、何度か練習したことがある。だが難しく、ものにならなかった。

 その投法を多くの子どもたちがマスターしている姿に驚いた。数年前、呉の小学生によるソフトボール大会を見たときだ。どの子も球が速い。大人でも簡単には打てそうにない。私が楽しんできた競技とはまったく別次元に感じた。

 なぜこんなにレベルが高い? 監督たちに聞くと、ほぼ同じ答えが返ってきた。日鉄日新製鋼呉製鉄所の社会人チームが戦後早くから全国大会で活躍したことが大きいという。

 敗戦が尾を引くころはとりわけ、子どもたちを元気づけただろう。市内に多くのチームができたようだ。呉製鉄所が地域と歩んできた歴史の一端といえる。

 その呉製鉄所が立つのは海軍工廠(こうしょう)跡である。明治時代に海軍の進出とともに埋め立てられ、戦艦大和を建造したドックや日本初の海軍の製鉄所も置かれた。

 終戦で一帯は一時、連合国軍に接収された。当時、呉市は軍港都市から産業港湾都市への転換を掲げて国に働き掛け、跡地の民間利用に道を開いた。

 海岸沿いには今、造船所や製鉄関係のプラントが並ぶ。その代表格である呉製鉄所は戦後復興のシンボルともいえる存在だ。

 そうした歴史をまったく忘れたかのような全面閉鎖方針は残念でならない。

 「鉄は国家なり」といわれるほど重要な基幹産業である。港湾や広大な敷地も必要とし、地元の理解が欠かせない。それだけに地域と一緒に歩む姿勢を堅持してきたのではなかったか。

 中国などの競合先の成長で、もはや余裕がないのかもしれない。だが、歴史の重みをいま一度かみしめ、全面閉鎖の回避へ、地元と協議を尽くしてほしい。

(2020年2月29日朝刊掲載)

年別アーカイブ