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社説・コラム

社説 NPT発効50年 被爆国の役割 忘れるな

 核拡散防止条約(NPT)の発効からきょうで半世紀を迎える。米ロ中など5カ国に核兵器保有を認める代わりに、非核兵器保有国への不拡散と核軍縮への誠実な交渉を義務づけた国際的な取り決めである。

 しかし190カ国以上が加盟するこの枠組みはいま、崖っぷちにある。5年に1度開かれるNPT再検討会議で、2000年に核兵器廃絶への「明確な約束」が最終文書に盛り込まれたのを最後に、今世紀の世界は核軍拡へと突き進み、核拡散を招いているからだ。

 自国第一主義がはびこる核超大国の米国とロシアは小型核兵器の開発を進める。昨年には両国の中距離核戦力(INF)廃棄条約も失効した。来年2月に期限を迎える新戦略兵器削減条約(新START)の延長交渉に入るそぶりもない。米トランプ政権が、イランとの核合意を一方的に離脱し、イランのNPT脱退も懸念されている。

 北東アジアでは、北朝鮮が米国との非核化交渉が停滞する中でミサイル開発を続け、精度を上げている。中国も核戦力を含めた軍備増強を続ける。

 危機的な状況の象徴が、地球最後の日までの残り時間を示す米誌の「終末時計」だろう。ことし1月、冷戦下で米ソが水爆開発を過熱させた1953年より短い「100秒」を指した。

 この夏は、米国による広島・長崎への原爆投下から75年の節目でもある。核兵器による地獄を生き延び、歳月を経てなお心身に傷を抱える被爆者たちがいる。核兵器をなくさねばならないのはなぜなのか。今こそ原点に立ち返るときだ。

 4月下旬から米ニューヨークの国連本部で開かれるNPT再検討会議は何としても成功させたい。国連で核兵器禁止条約が採択されてから初めての開催であり、崩壊寸前のNPT体制を立て直すチャンスでもある。

 被爆国の姿勢は、そんな機運に水を差すことにならないだろうか。日本被団協が再検討会議に合わせてニューヨークの国連本部で開く「原爆展」について、日本政府が後援に難色を示している。東京電力福島第1原発事故と旧ソ連のチェルノブイリ原発事故に触れた展示パネル2枚を、「NPTは原子力の平和利用を認めている」と問題視しているようだ。

 しかし日本被団協によれば、過去の再検討会議の際に開いた原爆展でも原発事故を扱ったパネルは展示しており、外務省は後援してきた。

 今回はなぜなのか。被爆者たちが、人道的な見地からいまも続く核被害について訴えようとすることのどこに問題があるのだろう。納得できるようきちんとした説明が求められる。

 それでなくても日本政府は核兵器禁止条約に背を向けるなど、核軍縮を巡って米国の顔色をうかがってばかりに見える。

 かねて政府は「唯一の戦争被爆国」を掲げ、「核保有国と非核保有国の橋渡し役」をうたってきた。

 ならば核による悲惨を身をもって体験し、今なお世界で多くの命を脅かす核をなくそうと声を上げる被爆者の思いをくみ、後押しする責任がある。米国をはじめ核保有国にも核兵器削減への具体的道筋を明らかにするよう強く迫るべきだ。被爆国の役割を忘れてはならない。

(2020年3月5日朝刊掲載)

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