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NPT 5日発効50年 「核の傘」頼らぬ意思表示を 広島市立大 水本和実教授に聞く

 核拡散防止条約(NPT)は5日、発効50年の節目を迎える。NPTが核軍縮や不拡散に果たしてきた役割や、4月下旬に始まる5年に1度のNPT再検討会議の見通しを、広島市立大広島平和研究所の水本和実教授(核軍縮)に聞いた。(明知隼二)

  ―NPTが果たしてきた役割は何ですか。
 約190カ国が加盟し、核軍縮に関して拘束力を持つ唯一の多国間条約だ。核兵器はその後、非加盟国などによる保有はあったが、先進国に広がらなかったのは一つの成果と言える。

 一方、米ロなど保有5カ国の特権的な立場を固定化させた。NPTは本来、保有国が協調して核軍縮を進めることが前提だ。保有国が核軍縮に背を向ける今、危機的な状況にある。

  ―今回の再検討会議は決裂が危ぶまれています。
 保有国は「安全保障を巡る国際環境が改善しないと核軍縮はできない」と居直っている。だが、当たり前の市民感覚に照らせば、核軍縮の進展が環境改善につながる。保有国の論理のおかしさを、非政府組織(NGO)や市民社会も本気で追及しなくてはならない。

  ―核兵器禁止条約が成立して初の再検討会議です。
 保有国は、禁止条約は性急で「NPTを弱体化させる」と強く拒んでいる。推進国側の「NPTを補完する」との主張を正面から否定しており、条約発効に向けては新しい説得の論理が必要だろう。どう議論されるか注目したい。

  ―日本政府はどのような役割を果たすべきですか。
 加盟国間の「橋渡し役」というが、米国のトランプ政権に引きずられていては国際的な信用を失う。米国の「核の傘」に頼らない安全保障の在り方を考え、その意思表示をするべきだ。

  ―被爆者は今回も現地で廃絶を訴えます。
 被爆者は単なる生存者ではない。個人の心情は多様だろうが、その中で報復ではなく和解や平和を訴えてきた。核兵器の非人道性の議論が広がる中で、その考え方の重要性は国際社会に浸透してきた。今こそ果たすべき役割は大きい。

核拡散防止条約(NPT)
 1970年に発効し、約190カ国が加盟する。米国、ロシア、英国、フランス、中国に核兵器の保有を認める一方、核軍縮の「誠実な交渉」の義務を課す。それ以外の国には核兵器取得を禁じ、原子力の「平和利用」を認める。事実上の核保有国のイスラエル、インド、パキスタンは未加盟。北朝鮮は2003年に脱退を表明した。条約の運用状況を点検するため、5年ごとに再検討会議を開催し、その3年前から毎年、準備委員会を開いている。前回の15年会議では、合意文書を採択できなかった。

(2020年3月5日朝刊掲載)

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