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社説・コラム

社説 東日本大震災9年 暮らしの復興 まだ遠い

 東日本大震災の発生からきょうで9年を迎える。私たちはこの節目の日に、どう向き合えばいいのだろう。

 甚大な被害を受けた岩手、宮城、福島の3県では、災害公営住宅の整備がほぼ完了し、JR常磐線もまもなく全線再開して被災した鉄道も復旧を終える。

 一方、被災3県の42市町村のうち9割で人口が減少している。被災地では今も仮設住宅で暮らす人がいて全国で約4万8千人が避難生活を余儀なくされている。この現実を忘れてはなるまい。

 東京電力福島第1原発事故の傷はなお深い。今月に入って、原発事故で避難をやむなくされた福島県双葉町と大熊町、富岡町の一部で避難指示が解除された。ただ14日に全線が再開するJR常磐線の駅周辺などわずかな区域にすぎない。帰還困難区域の一部を集中的に除染する特定復興再生拠点区域でも、指定解除の目標は2年後で住民が帰るとしてもそれからになる。

 住民たちはどう受け止めているのだろうか。

 復興庁による直近の住民意向調査では、帰還について「戻らないと決めている」と答えた人が双葉、大熊両町で6割を超え、その割合は前回調査より増えた。逆に「戻りたい」と答えたのはおよそ1割で前回より減っているのが実情である。

 津波の被災地でもこの9年で公共事業は着々と進んだ。復興支援道路は大半が開通し、太平洋沿岸には巨大な防潮堤が伸びる。インフラ整備は総仕上げの段階だろう。しかし岩手県陸前高田市などの沿岸部ではかさ上げされた住宅用地に空き地が広がり、災害公営住宅にも空室が目立っている。

 避難先で生活基盤を築いた人も多い。いったん失った暮らしやコミュニティーを元に戻すのは容易ではない。時間がたてばたつほど、帰還が難しくなる面もあろう。

 避難生活の負担による災害関連死は昨年9月末時点で、1都9県で3739人に上る。歳月とともに被災者の高齢化も進む。国任せのインフラ整備の裏で、取り残されている住民がたくさんいるのではないか。

 それは数字にも表れている。共同通信が被災3県の災害公営住宅に住む人を対象にした調査で、85%の人が、東京五輪が復興の役に立つことを期待していないと答えた。政府は「復興五輪」を掲げるものの、住民には五輪より生活再建に目配りをといった思いが強いようだ。

 片や被災市町村長へのアンケートでは、64%の首長が「復興五輪の理念は浸透している」と回答している。「復興状況のPR」や「訪日客の誘致」を目指すまちづくりを重視する首長と、生活面の立て直しを求める被災者との温度差が生じているのではないか。

 政府は昨年末、2021年度以降の復興基本方針を閣議決定した。復興庁の設置期限を10年間延長し当面5年間について支援事業を実施する。一方でこれまでの30兆円を超える復興事業については必要性や有効性の検証がほとんどなされていない。

 被災者の暮らしを置き去りにしたまま復興事業を終わらせることは許されまい。被災者にとって、復興はまだまだ遠いという現実を、私たちは胸に刻んでおかなくてはならない。

(2020年3月11日朝刊掲載)

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