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社説・コラム

天風録 『知らずとも』

 折に触れて、東北の地方紙「河北新報」をめくる。読者投稿の歌壇に今月、仙台市の女性が歌を寄せていた。<知らずとも生きられるニュースあふれおりテレビを消して今日の米とぐ>。3・11を境に人生の大事、小事の見境も変わったのだろう▲知るべきニュースがテレビに満ちあふれた日もある。あの大震災の2日後。本紙テレビ欄から「挙式目前⁈」「独占!」といった疑問符や感嘆符の山が消える。【安否放送およびニュース】【報道特番】の番組名ばかりが残り、余白だらけとなった▲9年の節目を迎えたきのう、またぞろ「!」がテレビ欄にあふれていた。復興の証しなのか、風化のしるしなのか。被災地の内と外と、ずれが気に掛かる▲視聴率の高い午後7時~10時台の番組に、震災9年の文字があったのはNHKと民放1局。災害級に例えられるウイルス禍のさなかという事情を割り引いても寂しい。ふと気付けば、「絆」の一字も姿が見えなかった▲もちろん、人を呪わば穴二つ―である。新聞だとてニュースを扱うメディアにほかならない。日々の自己点検を怠れば、<知らずとも>とそっぽを向かれてしまうだろう。省みる頼りは読者の声である。

(2020年3月12日朝刊掲載)

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