×

社説・コラム

『記者縦横』 核廃絶 VRで後押しを

■備後本社 湯浅梨奈

 高校時代、何度も思いを巡らせた。本当にここで、人が暮らしていたのだろうか―。母校から近い広島市中区の平和記念公園。放課後、緑の木々に囲まれながら戦前のこの場所を想像しようとした。イメージできない。もどかしかった。

 あれから10年。取材した福山市野上町の福山工業高で願いがかなった。計算技術研究部の部員が、原爆で壊滅する前後の街を再現するバーチャルリアリティー(VR)映像を作っていた。ぎこちなくゴーグルをはめてみる。一瞬で75年前にタイムスリップした。

 原爆ドームの前身、広島県産業奨励館の階段を上る。西側を見渡すと、川を挟んで繁華街が広がっていた。しばらくすると空から何かが落ち、視界が真っ白に。炎とがれきに包まれ、その場で立ちすくんだ。

 生徒たちは街を忠実に再現しようと、写真や設計図を基に階段の手すりの小さな柄や自転車のさびでさえ妥協しない。「手すりの黒いのは、陰じゃなくて穴なんよ」。当時を知る被爆者に確かめてもらい、少しでも違えば、数カ月かけたものをゼロから作り直す。

 「1発の核兵器が何をもたらしたのか。後世に伝えたい」。細部にこだわる生徒の思いが伝わってきた。

 部員2人は、4月に米ニューヨークである核拡散防止条約(NPT)再検討会議に派遣される。VRを持参し、世界中から集まる人に体験してもらう。核兵器にさまざまな考えを持つ参加者に、真っすぐ思いを伝える彼らの姿が浮かぶ。

(2020年3月13日朝刊掲載)

年別アーカイブ