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原爆資料館 浸水対策を 地下に大半収蔵 デルタ地帯の課題に 

広島市「内部で対応検討」

 全国で豪雨や台風による水害が相次ぐ中、本川と元安川に挟まれたデルタ地帯にある原爆資料館(広島市中区)の浸水対策が課題となっている。他県では、地下に水が流れ込み、博物館の収蔵品が壊滅的な被害を受けた事例もある。「無言の証人」である被爆資料を後世に残すため、有識者からは早急な対応を求める意見が出始めた。(明知隼二)

 資料館にある被爆資料は、中身が炭化した弁当箱や焼け焦げた衣類など、被爆者や遺族が寄せた約2万点。写真のプリントやフィルム、被爆者が描いた「原爆の絵」などを含めた収蔵資料は約10万点となる。ほかに、貴重書を含めた図書類も約7万点ある。

 展示中の資料はごく一部で、残りは東館の地下にある収蔵庫(4室計約3400平方メートル)や書庫で保存している。収蔵庫には温度や湿度を管理する設備はあるが、浸水を防ぐ機能はなく、建物全体を囲む防水壁などは整備されていない。

 「被爆資料は唯一無二だ。失ってしまえば取り返しがつかない」。資料館を運営する広島平和文化センター(中区)が展示や資料の保存について助言してもらう有識者会議。2月下旬に資料館であった初会合では、複数の委員から早急な対策を求める意見が出た。

 引き合いに出されたのが川崎市の市民ミュージアムだ。昨年10月の台風19号で九つの地下収蔵庫が全て浸水。考古資料や美術品など約26万点のうち約23万点が被害を受けた。ハザードマップで浸水を想定していたが、施設面の備えは排水ポンプだけ。川崎市は「これまではポンプで対応できていた。新たなハード対策を進める議論はなかった」と振り返る。

 被爆資料を浸水から守るには、資料館を囲む防水壁の設置や、収蔵庫内に水が入らないようにする水密化などが考えられる。広島市平和推進課は「川崎市の事例もあり問題意識はあるが、具体化する段階にはない。どのような対応があり得るかを内部で話し合っている」と説明する。

 有識者会議の委員で国立歴史民俗博物館(千葉県佐倉市)の久留島浩館長は、想定外の自然災害が相次ぐ中、常に最悪のケースを考える重要性を説く。「ハード整備はすぐにはできないかもしれない。まずは水害時にどの資料を最優先で守り、どう退避させるかなど、具体的なシミュレーションから始めてはどうか」と投げ掛ける。

原爆資料館周辺の浸水想定
 国は最大規模の台風が襲来した場合、広島市内のデルタ地域で高さ4.4メートルの高潮が起こると想定。資料館一帯の護岸は高さ3.5~4.0メートルほどで、水があふれる恐れがある。国は順次、川岸のかさ上げを進めるが、本川と元安川の流域のうち、資料館に近いエリアでの着手は早くて2023年度以降となりそうだ。これとは別に、市が2017年に作ったハザードマップによると、200年に1度レベルの大雨で太田川流域の2日間の総雨量が396ミリに達した場合、東館はかろうじて浸水を免れる。

(2020年3月20日朝刊掲載)

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