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平和発信も練り直し 原爆展など 広島市や県困惑

 新型コロナウイルスの感染拡大で東京五輪・パラリンピックが1年程度延期される方針となり、被爆地では25日、原爆展などの開催を計画していた自治体が対応に追われた。被爆75年の節目でもあり、感染の状況を見極めながら核兵器廃絶を訴える機会を探る。

 「日本での五輪開催を前提に原爆展などいろいろな準備を進めてきたが、予定通りの開催はできないだろう」。広島市の松井一実市長は記者会見で語った。

 市は五輪とパラリンピックの会期に合わせて7月中旬~9月上旬、東京都文京区、千代田区、埼玉県飯能市で原爆展を予定している。「五輪だけでなく、被爆75年という時間軸も考えた取り組みだ」とも述べ、3自治体と展示の可否も含めて協議するとした。

 広島県は、各国の選手団などに広島訪問の働き掛けを強めようとしていた。市と準備を進めてきた各国の大使館への要請も練り直しを迫られる。

 県平和推進プロジェクト・チームの栗原あゆみ担当課長は「オール広島で発信力を高め、核廃絶の機運を高めようと組み立ててきたが、影響は大きい」とみる。7~8月には県内で国際会議などを予定しており「日本政府の対応や各国の渡航制限の動きを見極め、慎重に検討したい」と語った。

 中区の原爆ドーム前でボランティアガイドを続ける被爆者の三登浩成さん(74)=広島県府中町=は「五輪がなくなろうと、やるべきことは変わらない」と、淡々と受け止めた。

 この日も、県外から訪れた学生たち5組を案内したという。「確かに海外からの訪問は減っているが、国内でも関心を持って広島を訪れてくれる人はいる。私は一人一人に、広島の被爆の事実を伝えるだけだ」と力を込めた。(明知隼二、宮野史康)

「思い伝える場 失われて残念」 長崎市長

 長崎市の田上富久市長は25日、東京五輪・パラリンピックの延期について「適切な判断だが、被爆75年の節目に長崎の思いを発信する機会が失われたのは残念」と述べた。8月9日の原爆犠牲者慰霊平和祈念式典は、五輪閉会式と日程が重なる予定だったため、市は各国要人の出席を調整していた。

 五輪期間中に東京都内で予定していた原爆展の中止も表明。「被爆体験継承の観点から、今年が重要な年であることは変わらない。どう世界にアピールしていくかを考えたい」と強調した。

(2020年3月26日朝刊掲載)

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