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救護被爆者訴訟 広島市が控訴断念 7原告に手帳交付

■記者 東海右佐衛門直柄

 救護被爆者としての被爆者健康手帳交付を求めた訴訟で、広島市は7日、原告7人に対する申請却下処分を違法とした広島地裁判決を受け入れ、控訴しないと表明した。審査は国からの法定受託事務で厚生労働省健康局は「市としての判断を尊重する」としている。市は原告全員に手帳を交付した。

 秋葉忠利市長が、市役所で原告のうち6人と会い「時間が経過しておわびしたい」と陳謝し、手帳を手渡した。記者会見で市長は「上級審の判断を仰ぐことはいたずらに時間を費やすことになる」と述べた。

 市はこの日、内部で定めていた「1日10人以上の輸送、救護、看護」とする従来の「三号被爆」の手帳交付要件も廃止した。今後は原告7人の被爆状況を精査。弁護団や内部被曝(ひばく)に詳しい科学者の知見を踏まえ、新たな指針の策定を急ぐ。

 広島県、長崎県・市とも早急に協議して指針をまとめ、統一基準を定めてこなかった厚労省に伝える。新指針を「事実上の基準」とし、4県市と同様に手帳審査を担当している他の都道府県にも採用を促す。

 原告7人は78-65歳の男女。被爆者が収容された当時の佐伯、安芸、安佐郡などの寺や学校などで看護を手伝ったり、親に背負われたりしていた。

 市は2002年8月-2005年1月、審査基準を満たすだけの事実を確認できないと申請を却下した。3月25日の広島地裁判決は「原爆投下から約2週間の間に被爆者が多数いた環境に相応の時間とどまった」と指摘。放射線の影響を受けたことは否定できないとして、市の処分を違法と認定した。控訴期限は8日に迫っていた。

(2009年4月8日朝刊掲載)


<解説>交付審査「統一基準」急げ

■記者 水川恭輔

 広島市の7日の控訴断念は、救護活動などを通して自身も内部被曝した可能性がある人たちへの救済の道を広げた。司法判断に従う形とはいえ高齢化が進む被爆者の実情を考慮した判断は評価できる。

 市によると、救護被爆者の手帳交付申請は、原爆投下から60余年が経過したいまも年間50-60件に上る。だが、昨年度は「1日10人以上の輸送、救護、看護」などとする市の内部基準を満たさない42件を却下した。認められたのは約2割にすぎなかった。

 地裁判決は、この基準を「合理的な根拠があるかどうか十分に精査せず、数値的な指標を導入した」と指摘していた。

 確かに、三号被爆の統一的な審査基準を整えてこなかった国の姿勢は批判されるべきだ。しかし、放射線被害の実態と向き合ってきた被爆地の行政が長年、内部基準の検証もせず、これまで一律に適用してきたのも事実である。

 市が新たな審査の指針づくりを早急に進めるのは当然だろう。そのうえで、被爆地だけでなく全国の「統一基準」として国に認めさせるのが、市の果たすべき責務ではないか。

三号被爆
 被爆者援護法第一条三号に定める「身体に原爆の放射能の影響を受けるような事情の下にあった者」を指す。原爆投下後、2週間以内に立ち入れば「入市被爆」(二号)と認められる爆心地からおおむね半径2キロの区域外が対象。被爆者の救護や搬送のほか、原爆投下直後に降った「黒い雨」を浴びた事例がある。2008年3月末で2万4928人。被爆者全体の1割を占める。

(2009年4月8日朝刊掲載)

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