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社説・コラム

『今を読む』 ユニタール広島事務所長 隈元美穂子

新型コロナ対策 国連の提案 

団結して危機乗り切ろう

 2019年の大みそか。世界保健機関(WHO)中国事務所に、武漢での原因不明の肺炎が初めて報告された。それは、後に新型コロナウイルス感染症と呼ばれることになる。

 それから3か月以上が過ぎた。新型コロナは山火事のように世界へ飛び火し、パンデミック(世界的大流行)となった。世界中で感染者は200万人を超え、死者は10万人をはるかに上回る。世界は未曽有の危機に直面している。私たち一人一人も生活が大きく変わり、不安な日々を過ごしている方も多いだろう。

 国連は、この危機にどう対応すべきかを「分け合う責任と世界の団結」という文書にまとめ、発表した。また、さまざまな国連機関が分析を行って提案している。特に鍵となると思う点を紹介したい。

 最優先は人命を守ること。そのための公衆衛生の徹底である。WHOはマスクだけでは感染防止の効果はなく、手洗い、人との距離をあけること、外出や移動の制限などの迅速な徹底を推奨している。また医療従事者がサービスを効果的に行えるように物資を確保し支援体制を強化する。検査と隔離を積極的に実施する。感染者への偏見や差別を許さないことも肝心である。

 経済的な打撃を緩和させる対策が急務だが、今ある社会格差がさらに広がらないような取り組みも重要である。

 例えば非正規労働者など不安定な雇用条件にある人や、海外からの労働者。中小企業への支援。会社全体で対策に取り組めるよう在宅勤務など柔軟な勤務体制、有給休暇、育児や介護支援などを導入することが大切となる。ユニタール(国連訓練調査研究所)広島事務所を含む国連も在宅勤務に移行している。

 教育への影響も深刻だ。国連教育科学文化機関(ユネスコ)によると、世界の190近い国で学校が閉鎖され、学校に通う若者の9割を超す15億人以上に影響が出ている。遠隔授業を受けられない状況にある子どもたちや、貧困の中で食事を給食に頼っている子どもたち。虐待の増加などさまざまな課題が存在する。

 新型コロナは男女に異なった影響を与えていることも認識しなければならない。男女共同参画に取り組む国連機関「UN Women」は、家庭で過ごす時間が増えたことで、世界で家庭内暴力が急増していると警鐘を鳴らす。

 国内だけではなく、国と国との間の格差拡大も見逃せない。世界では7億人が最貧困層とされ、13億人が医療を含む最低限の公共サービスへのアクセスがない。後発発展途上国では、家に手洗い設備がある人々は4割弱とされる。世界不況、石油価格の低下などで発展途上国の経済は大打撃を受けている。

 例えばユニタール広島事務所が支援するアフガニスタンの人々は暴力や貧困などにより普段から厳しい生活を強いられている。医療施設も十分というには程遠い。アフリカの多くの国々は体制が脆弱(ぜいじゃく)で、新型コロナウイルスの影響は計り知れない。人々は不安な日々を過ごしている。国際社会からの支援が一層重要となる。

 さらに緊急対応から中長期回復への移行段階では、社会をパンデミック前の元通りの形に戻す事より、さらに強化された社会を生み出すことを目標に置くことが効果的である。パンデミックで露呈した社会経済問題の根本原因に対処すれば可能なはずだ。

 人類は地震、洪水、紛争、戦争などさまざまな危機を経験してきた。私たちが直面する新型コロナは世界史に残る大きな出来事となるだろう。この危機を乗り越えるには政府や自治体、さまざまな民間団体、そして個人が一体となり、英知を集結させて取り組まなくてはならない。

 広島は平和と希望のまちだ。原爆・戦争でも災害でも、こうした感染症でも弱い立場にある者にしわ寄せがいきがちだ。そうした人々に目を向け「ピンチをチャンス」とし、格差のない、持続可能な社会と世界をつくることをぜひ目指してほしい。

 私たち一人一人の行動が鍵となる。今こそ団結の時だ。

 福岡県太宰府市出身。米ウエストバージニア大卒。九州電力を経て米コロンビア大国際公共政策大学院修了。01年国連開発計画入り。14年から現職。19年7月からはユニタール持続可能な繁栄局長を兼務。

(2020年4月18日朝刊掲載)

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