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『潮流』 3度目の夏

■経済部長 古川竜彦

 東日本大震災から3度目の夏がくる。クールビズの前倒しは3年目となり、冷房の設定温度を高めにする節電も職場や家庭ですっかり定着したようだ。

 こうした省エネ効果もあるのだろう。国内のほとんどの原発が停止しているにもかかわらず、電力の余力を示す夏の「予備率」が全国平均で約6%確保でき、安定供給に必要な3%を上回る見通しになった。

 政府も今夏の節電について数値目標を設けないと決めた。需要期に節電目標を設けないのは震災後では初めてで、無理のない自主的な節電の要請にとどめる。

 現在、全国に50基ある原発は関西電力大飯原発(福井県)の2基を除いて、すべて止まっている。昨夏と同様に、原発への依存度はゼロに近い状態が続いている。それでも、節電を進め、電力会社同士で電気をうまく融通すれば、今以上に原発を稼働させなくても、なんとか夏を乗り切れることを示したといえる。

 ただ、原発なしの電力供給には問題も多く残る。原発停止を補う火力発電への依存率が9割に急上昇している点だ。老朽化した設備が多く、故障や不測の事態で停止すれば、想定外の停電が起きる懸念は強まる。そのとき、需給バランスは一気に窮迫するだろう。

 さらに、輸入で仕入れる液化天然ガス(LNG)などの燃料コストが大幅に上昇している。電力会社の収支を悪化させており、いずれは電気料金の値上げが避けられない。

 今夏の節電をめぐる議論を、電力が足りるか不足するか―といった需給リスクの問題にとどめてはならないとも思う。

 さまざまな見方はあるだろうが、日本の社会が原発に頼らずやっていける可能性も生まれている。この夏の経験を、コストを含めて将来の電力供給についてあらためて考える出発点にしたい。

(2013年5月23日朝刊掲載)

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