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社説・コラム

『潮流』 想定外の「途中退場」

■ヒロシマ平和メディアセンター長 金崎由美

 今年1月、古里北海道に住む小学5年のめいが広島へ遊びに来た。初めて両親から離れ、私の母である祖母との2人旅。広島市内や宮島(廿日市市)で観光を大いに満喫し、最終日は原爆資料館に連れて行った。

 道内には広島市内の学校のような平和学習の機会はないものの、自分でかなり「予習」したという。「被爆樹木はね…」。準備万端らしい。しかし、想定外の「異変」が起こった。

 取材でお世話になっているヒロシマピースボランティアの永原富明さんに、案内してもらった。冒頭の展示は、被爆前と被爆直後の広島市街の大きな写真である。めいは「うわ、丸焼けだ」と絶句し、つないでいた手を強く握ってきた。11歳目前にしては小さな指先が、みるみる冷たくなる。被爆死した少年少女の遺品の前に来ると、吐き気を催し始めた。

 やさしく語りかけてくれた永原さんにおわびし、やむなく「途中退場」となった。佐々木禎子さんの折り鶴も、見られずじまい。帰宅してから、ゆっくり話した。写真や「原爆の絵」にショックを受けたという。いとおしさを込めて抱きしめた。

 原爆平和報道に携わる一人として「原爆資料館を皆が見学すべきだ」という思いを記事に込めてきたが、年齢も出身地も多様な見学者の身になって考えてきただろうか。悲惨極まる展示に、どこか慣れてしまっていなかったか―。わが身を振り返った。

 絵手紙を時折送ってくれるめいから先月末、「今度は全部見ます」と便りが届いた。永原さんによると、子どもが展示を極端に怖がることは、やはりよくあるという。「でも、成長し、思いを深めて再訪してくれる人も必ずいるんです」。めいの言葉を伝え、次回も解説を、とお願いした。新型コロナウイルス感染の早期収束を願うばかりだ。

(2020年5月14日朝刊掲載)

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