×

社説・コラム

『記者縦横』 被爆建物からの励まし

■ヒロシマ平和メディアセンター 桑島美帆

 小学校の休校が長引き、1年生の次女も入学直後から「自主学習」の日々が続く。家でも職場でも環境が激変し、鬱々(うつうつ)としていたさなか、通勤路で「広島は屈しない」という言葉を目にした。

 先月下旬、広島東洋カープが被爆建物の福屋八丁堀本店(広島市中区)に掲げた懸垂幕だ。新型コロナウイルスの影響で、みんなの心が折れないようにと球団側が提案したという。

 1938年に完成し、爆心地から710メートルに位置する八丁堀本店は原爆で外壁を残して全焼した。多くの犠牲者を出し、臨時病棟にもなった。だが、戦前同様、今も百貨店として使われている。福屋に携わる人たちの「守っていく」という意志がなければ、とっくに壊されていただろう。

 昨秋の創業90周年に合わせ、大下洋嗣社長に本店への思いを取材したことがある。先人の努力や、地域にささえられてきたことなどを挙げ「福屋の財産というよりは広島の街の財産。この建物は残していかなきゃいけない」と力強く語った。

 県と国が保有する「旧陸軍被服支廠(ししょう)」の保存論議を機に被爆建物への関心が高まっている。86件のうち約7割は神社仏閣やマツダ、広島電鉄など民間の保有だ。老朽化が進む一方「歴史の証人」としての重みは増す。

 被爆に屈せず、復興への希望となった建物から75年後も私たちは励まされている。コロナ禍の中、「広島の街の財産」という言葉をあらためてかみしめた。

(2020年5月15日朝刊掲載)

年別アーカイブ