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社説・コラム

社説 自衛隊の宇宙作戦隊 「専守防衛」踏み外すな

 航空自衛隊の宇宙作戦隊が、東京都府中市の府中基地を拠点に発足した。日本の人工衛星を守るため、宇宙ごみ(デブリ)や隕石(いんせき)、不審な衛星を見張る。宇宙監視の専従部隊の設置は初めて。

 人工衛星は世界で6千個打ち上げられている。通信や放送、気象・環境の観測、位置の測定など私たちの暮らしを支えている。重要さが増すにつれ、きな臭い動きも出てきた。例えば中国やロシア。人工衛星に接近して攻撃する「キラー衛星」や衛星との通信を妨害する装置を開発しているとされる。

 米国とともに対抗する必要があると考えて、日本も宇宙作戦隊を発足させたのだろう。ただ宇宙の軍事利用を加速させることにならないか、懸念される。

 約20人で発足した宇宙作戦隊は、山陽小野田市で建設中のレーダーで、高度約3万6千キロの静止軌道を監視する役割を担う。防衛省の予定では、米軍や宇宙航空研究開発機構(JAXA)と連携して情報共有システムづくりを進め、2023年度から運用を開始。26年度までには、独自の宇宙監視衛星の打ち上げも目指すという。

 小所帯で設立されたが、いずれは100人程度に増やす方針だ。河野太郎防衛相は「小さく生んで、しっかりと育てていきたい」と意欲を燃やす。

 デブリ対策が急がれるのは確かである。地上から確認できる10センチ以上の物は2万個を超え、半世紀前の20倍に。衝突を避けるため、人工衛星の軌道変更が迫られることもある。

 しかし自衛隊でないとできないことか。もっと本格的な宇宙進出が視野にあるのではないか。政府が前のめりなだけに、そんな疑念が拭いきれない。

 政府は空自の改称による「航空宇宙自衛隊」創設を夢見ている。安倍晋三首相も昨年9月、自衛隊高級幹部の会議で「航空宇宙自衛隊への進化も夢物語ではない」と述べた。宇宙進出が専守防衛の枠を踏み外さないよう、監視が必要だろう。

 既に歯止めは緩んでいる。1969年の国会決議では宇宙利用は、「平和の目的に限る」のが原則だった。しかし2008年、「非侵略ならば平和利用」とする宇宙基本法が、議員立法で成立した。方針の大幅転換によって、専守防衛の範囲内での軍事的利用を認めたのだ。

 しかも米国追随とセットだけに疑念は深まる。

 米国は「宇宙は新たな戦闘領域だ」と位置付け、昨年末に1万6千人体制で宇宙軍を新設した。日本には一層の「貢献」を求めていた。それに応えるように安倍首相は今年1月、日米安全保障条約の記念式典で、宇宙やサイバー分野で同盟強化の意向を強調していた。

 このままでは、宇宙空間での覇権争いに巻き込まれかねない。なし崩し的な日米の軍事的連携の強化は許されない。

 宇宙作戦隊の役割について、憲法との整合性をきちんと整理して、どこまでなら許されるか、あらかじめ歯止めを明確に設ける必要がある。国民への丁寧な説明も欠かせない。

 外交努力も求められる。宇宙空間の自由な利用を定めた宇宙条約はあるが、人工衛星の破壊禁止などの規定はない。政府は、不十分な国際ルールづくりの先頭に立つべきである。

(2020年5月27日朝刊掲載)

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