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昨年度の原爆症認定は2969件 基準緩和で23倍に激増

■記者 岡田浩平

 被爆者援護法に基づく原爆症の認定が昨年度は2969件となり、前年度の約23倍に伸びた。国が昨年4月に基準を緩和したのが激増の理由だ。ただ、新基準でも対象となった病気はがんなど6つにとどまる。

 厚生労働省によると、昨年度の認定では、5つの病気が対象で距離などの一定条件に当てはまる場合の「積極認定」が85%を占めた。病気別では胃や前立腺などのがんが2335件と9割以上。一方、白血病は148件、他の3つは3-27件だ。

 特に、白内障と心筋梗塞(こうそく)は爆心から近距離での被爆者しか認定していない。日本被団協の田中熙巳(てるみ)事務局長は「国が放射線量を重視する考えを変えていないのは明白」と憤る。厚労省健康局総務課は「資料がそろっていない人が多く審査は進んでいない」と説明する。

 積極認定の要件から外れた病気を個別に判断する「総合認定」は167件だった。このうち、距離条件などから外れたがん、白血病などが151件で、残る16件は、確定した大阪高裁判決が認めた甲状腺機能低下症。脳梗塞や狭心症、骨粗しょう症、圧迫骨折などの62件の申請を却下し、対象の病気は広がっていない。

 昨年3月以前の旧基準での国の却下処分取り消しを求めた原爆症認定集団訴訟では、国が16連敗。今年3月の東京高裁判決は積極認定の距離条件などに合えば、がん以外の病気も事実上原爆症と推定できるとした。全国弁護団の宮原哲朗事務局長は「判決を重ねるごとに司法判断は進化している」とみる。

 国は5月28日にある東京高裁判決を受け、肝機能障害と甲状腺機能低下症を積極認定に加える方向で基準を緩和し、訴訟の解決を目指す方針だ。

 しかし認定の実態から、被団協の田中事務局長は「原爆被害の実態を過小評価する国の姿勢は変わっていない」と強調。将来的には援護法改正が必要とみて、改正案の検討を進めている。

原爆症認定
 がん、心筋梗塞(こうそく)、白血病、副甲状腺機能高進症、放射線白内障の5つの病気は、爆心地から3.5キロ以内で被爆▽原爆投下からおよそ100時間以内に入市-などの条件に合えば有識者らでつくる被爆者医療分科会の部会で「積極認定」する。それ以外は、被曝(ひばく)線量や生活習慣を踏まえ分科会で「総合認定」する。昨年3月以前の古い基準でもあてはまる、がんは分科会に諮らずに「事務局認定」している。

(2009年4月15日朝刊掲載)

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