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被爆75年 発信再び 原爆資料館 証言活動見通せず

 約3カ月ぶりに開館した原爆資料館(広島市中区)には1日、広島県内に住む人に加えて、国内外の旅行者たちがこの日に合わせて姿を見せた。過去最多の来館者を迎えた臨時休館前の2019年度と比べて人数はまばらだが、75年前の被爆の事実を伝える営みをようやく再開した。ただ、被爆証言の再開はまだ見通せておらず、被爆者は「一刻も早く日常を取り戻してほしい」との願いを強めた。

 午前8時、資料館の東館入り口では数人が開館を待ちわびていた。秋から米国の大学に進む岩国市の河本航志さん(18)は「米国で学ぶ前に広島で何があったかを知っておきたかった」と説明。ビニールシート越しに職員から整理券を受け取り、館内に一番乗りした。

 昨年夏から日本旅行を続けているドイツ人のヤンニコラス・シュンケさん(20)は、資料館の再開に合わせて広島市を訪れる日程を組んだ。「人類の歴史に起きた重要な出来事を伝える施設で、必ず訪れたいと思っていた。人を長期にわたり苦しめる放射線の恐ろしさが分かる」と見入った。

 佐伯区の主婦城山潤子さん(66)は「ずっと来たいと思っていた。感染防止対策がされていて混雑もなく、ゆっくりと見学できた」と話した。県立広島大4年の小笠原海人さん(21)=呉市=は原爆をテーマにした映像作品の制作を志しており「夏を目標に形にしたい」と丁寧に見学を続けた。  資料館は19年度、3月が臨時休館だったにもかかわらず、過去最多の175万8746人を受け入れた。今回の再開に合わせて、館内に並べる被爆資料の一部を入れ替えたり、新たな資料展を始めたりした。展示を通じて被爆の実態を来館者に伝える役割は、一定に取り戻したと言える。

 一方で証言による発信は、高齢の被爆者たちの感染リスクを考慮し、再開の見通しが立たない。県被団協(坪井直理事長)の箕牧(みまき)智之理事長代行(78)は資料館で「修学旅行シーズンの5月の証言は全てキャンセルとなった。核兵器の恐ろしさを共有してもらうためにも、早く日常が戻ってほしい」と願った。

 資料館と同様に平和記念公園にある国立広島原爆死没者追悼平和祈念館もこの日、再開した。久保雅之館長は「新型コロナの感染で多くの人が命の大切さを再確認した。原爆で失われた命の重さをあらためて実感してほしい」と訴えた。

(2020年6月2日朝刊掲載)

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