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社説・コラム

社説 地上イージス計画停止 全面撤回 政府は明確に

 山口、秋田両県で進めてきた地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」の配備計画が頓挫した。河野太郎防衛相がおととい、安全面を理由に突然の方針転換を発表した。

 トランプ米大統領の言いなりになって、安倍晋三首相が次々に買わされた高額の防衛装備品の一つである。「配備ありき」で進めてきた政権の責任が問われなければならない。

 防衛省によると、陸上自衛隊むつみ演習場(萩市、山口県阿武町)への配備を巡り、安全面の欠陥が分かったという。迎撃ミサイルの発射後、推進補助装置(ブースター)を確実には演習場内に落とせない。これでは周辺の民家などに破片が降り注ぐ危険性が拭えないだろう。

 ブースターの落下場所を制御するにはソフト面だけでなく、ハード面の改修も必要になる。10年以上の歳月と数千億円のコストがかかる見込みで「配備は合理的ではない」と判断したという。当然だが、なぜもっと早く分からなかったのだろうか。

 ブースターの問題点は、町を挙げて反対していた阿武町の住民たちが当初から強い懸念を示していた。物理学が専門の大学教授も危険性を指摘していた。

 にもかかわらず防衛省は「演習場内に落とせるので問題ない」との説明に終始してきた。お粗末としか言いようがない。

 配備には、阿武町をはじめ二つの候補地の多くの住民が反対していた。秋田での適地調査では重大なミスが発覚し、防衛省に対する不信感も強まった。2年以上も、住民を混乱に巻き込んだのは間違いなかろう。

 賛成派にとっては、はしごを外されたようなものだ。防衛省への信頼は地に落ちた。他の地方で計画を進めようとしても、うまく進むとは到底思えない。

 配備しても使い物にならないのでは―。そんな批判が専門家や防衛省内にもあった。北朝鮮や中国がミサイル開発を加速させる中、最新の超音速兵器は迎撃できないというのだ。有効性すら疑わしいと言えよう。

 防衛省が今回決めたのは、計画停止にとどまる。国内のどこか2カ所に配備する計画そのものを断念したとは言明していない。政府は、計画の全面撤回を明確に打ち出すべきである。

 気になるのは米国の反応だ。計画撤回をすんなり受け入れるだろうか。値の張る防衛装備品だけに契約を守るよう求めるか、もっと高額の装備品購入を迫ってくるかもしれない。

 日本に2基のイージス・アショアが配備されれば、グアムやハワイを守る「盾」となる。そう歓迎する人も米国にはいる。

 難しい交渉を日本政府は覚悟しなければなるまいが、毅然(きぜん)とした対応が求められる。日米関係を重視するとしても、全ての要求に「イエス」と言わなければならないわけではない。

 米国の言い値と条件で防衛装備品を購入させられる「爆買い」の問題点を洗い出す必要がある。イージス・アショアは当初1基約800億円と想定されていたが、今は維持費を含め2基で総額4500億円に。さらに膨らむとの見通しもある。

 「兵器ローン」との批判もある、後年度負担という名のつけ払いが防衛費を巡って横行しているためである。そうした方法を含め防衛費総点検のきっかけにしなければならない。

(2020年6月17日朝刊掲載)

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