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社説・コラム

『記者縦横』 当たり前 見直す8・6に

■報道センター社会担当 加納亜弥

 湿っぽさが余計に暑さを感じさせる。例年なら観光客が目立ち始める原爆資料館(広島市中区)。今年は新型コロナウイルスの影響で人影はまばらだ。

 その資料館にある案内板で、市は「観覧料」の表記を見直す。市民や被爆者から「娯楽性を感じる」との声が相次いでいた。その表記に気づかなかった自らの不明を恥じるばかりだ。

 市は見直しの具体策として「常設展示をご覧になる方は…」といった説明文を検討している。「入館料」のアイデアもあったが、資料館は入館は無料、常設展示が有料という仕組みで、なじまないと判断した。

 「観覧料」は資料館ができた65年前から使われ、市の条例に記されている。条例を変えるとなると時間がかかる。今回は「市民の思いを受け止め、目に見える部分を変える」と、運用の見直しで決着させる。

 では、市が公式行事に使っている「被爆75周年」の表現はどうだろう。

 「『周年』は慶事以外に、災害や不幸な出来事にも使う。1955年から、10年ごとの節目行事で使っている」というのが市の公式見解。ただ平和行政に長く携わる職員からは「まるで祝い事のよう。長年違和感を持ってきた」との声を聞く。「自分の答弁やあいさつでは使わないようにしている」と明かす幹部もおり、現場の思いはさまざまだ。

 今年は新型コロナのために、いつもと違う静かな8・6がやってくる。今までの「当たり前」を、見つめ直す機会かもしれない。

(2020年6月19日朝刊掲載)

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