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社説・コラム

社説 原爆症 高裁一部認定 救済へ前進も 疑問残る

 原爆症と国が認めないのを不服として、広島の被爆者ら11人が却下処分の取り消しを求めた訴訟で、広島高裁は5人を原爆症と認定する判決を出した。

 原爆の放射線を浴びた一人一人の状況や病状に丁寧に向き合い、認定するかどうかを判断した。全員の訴えを退けた一審の広島地裁判決に比べ、前進したと評価できよう。

 一方で、6人は再び認定されなかった。放射線による人体被害は未解明な部分も多く、被爆者それぞれへの影響も異なる。放射線の影響が否定できない限り、認定基準はもっと広げるべきではないか。

 控訴審判決で、裁判長は国が導入した新基準に厳しい目を向けた。誘導放射線や放射性降下物について「過小評価の疑いが否定できない」と指摘。内部被曝(ひばく)の影響についても十分検討する必要があるとした。

 専門家の間でも議論が分かれる問題である。原爆症認定の判断には大きく影響するだけに、この指摘を国は重く受け止めなければならない。

 訴訟の主な争点は二つあった。甲状腺機能低下症や心筋梗塞といった病気が放射線を原因とするかどうかという「放射線起因性」と「要医療性」が認められるか否かである。

 判決で、放射線起因性と要医療性のいずれも認めた5人については原爆症と認定した。「若年で放射線に対する感受性が高く、放射線に被曝したことにより発症したとみるのが合理的」などの理由からだ。

 残り6人については「発症に影響を与える程度の放射線に被曝したといえるか疑問」「喫煙などの生活習慣に基づき発症した可能性を否定することはできない」などと訴えを退けた。

 原爆症認定を巡っては、集団訴訟で国の敗訴が続いたため、2008、09、13年と段階的に対象疾病の追加や被爆条件の設定など審査基準を緩和してきた。それでも認定されない被爆者120人が08年以降、広島など7地裁に提訴し、その訴訟の判決では8割以上の被爆者が勝訴している。

 そうした積極認定の流れができていることを考えれば、今の国の判断基準は依然厳しすぎるのではないか。今回の6人についても判決には疑問が残る。

 気になるのは、放射線起因性を認めながら要医療性がないとして認定されなかったケースだ。従来は医師の診断書があれば大半が認定された。医師の判断があれば、医療が必要な状態とみるのが自然ではないか。

 今回はしかし高いハードルを設けた。今年2月の最高裁判決で「積極的な治療行為の一環と評価できる特別な事情が認定には必要だ」との判断を示したことが影響しているのだろう。

 これでは経過観察を「積極的な医療行為」とするかどうかについて、国の裁量がより強まりそうだ。原告弁護団は控訴審判決を、国の責任で広く救済する被爆者援護法の精神に合致しないと述べた。その理念に基づけば国は積極的に認定を進める必要がある。

 被爆者の高齢化が進み、残された時間は短い。小手先の基準見直しではなく、援護の在り方そのものが問われている。国が起こした戦争の被害者である被爆者とどう向き合うか。国は、その姿勢を改めるべきだ。

(2020年6月24日朝刊掲載)

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